第4話
「そっか…そうよ!私もエンディングを自分で目指せば良いんだわ!」
主人公に私が同じ能力を持っている事を伝えれば全てうまくいく!はず…
学園に通い始めたらさっそく接触して…
「あ。待って…そうよ、主人公って…」
私はある事実を思い出して、頭をかかえた。
「誰が主人公か分からないじゃない~!!」
そう、このゲームのコンセプトとして『主人公になりきってプレイしてほしい』というものがあり、主人公には名前の設定がされていない。
更に言えば、一枚も主人公が映っているスチルが無く主人公がどんな顔なのか。
どんな髪型なのか。どんな体系なのか。何も情報が無いのである。
「そもそも入学してきても、誰が主人公か分からないって事よね…」
私は絶望的な気持ちになった。
「いや、でもそもそも!主人公が本当に存在するなら、攻略対象と仲良くなっていくはずよ!その中から候補を探せばいいんだわ!学園への入学が15歳だから…あと5年!早いわね」
私は1人でぶつぶつ呟き、これからの対策を練るのだった。
私については大分思い出してきた部分もあるし…
何より、前世を思い出したとは言っても、この10年私は紛れもなくルージュ=ホルダーだったのだ。
私自身の事は私が一番良く知っている。
「そう…知っているのよ…」
今までの恥ずかしい行いも全てね!!
私は涙目になりながら思い出していた。
本来であれば、貴族は生まれながらにして家庭教師を雇い、マナーや勿論学業も勉強していくはずだ。
だが、問題だったのがうちの家族。
一度私が5歳の時、勉強が嫌で泣きながら父と母に懇願した事がある。
『もう勉強はしたくない』と…
普通ならここで叱られるか、無視されて勉強を続けさせるとは思うが、家族はめちゃくちゃ私に甘かった。
父は『お前が出来る日が来るまでは無理をしないで良い』と言い、母も『その通りだ』と頷き、兄でさえも『僕が頑張るからルージュは無理をしないで』と言っていた。
まだ5歳だったのと、今まで散々甘やかされていた事もあり、私はこれを『ありがとう』の一言で受け入れてしまったのだ。
「最悪…最悪よ…」
私はまた頭を抱える。ゲームでのルージュの設定を思い出す。
甘やかされて育ったルージュ。
10歳で主人公と同じく選択肢の呪いが発生する。
誰にも話せず孤独を感じ、ルージュの性格は更に捻じ曲がっていく。
その性格に災いしてか、主人公とは違い過激な選択肢が出てくるようになるルージュ。
それが、主人公への嫌がらせだ。
TRUE ENDでこそ和解したが、他ルートでのルージュは悪役令嬢であり、選択肢が無かったとしても、学も無いただのワガママ令嬢だったことを忘れてはならない。
だから、TRUE END以外のどのルートに行っても、ルージュを庇う者は誰もいない。
結果、ルージュに待ち受けるのは死だった。
TRUE ENDを目指すのは変わらない。
それでも、他ルートに行ってしまった場合に死なないよう手を打っておかなければ!
「まずは確認しておかなければならないわね…」
私は自分の部屋から出た。扉の前で待機していたメイドにも一言伝えて一人で歩く。
コンコン
私はお兄様の部屋の前に到着した。一息ついて、扉をノックする。
「はい、どうぞ?」
お兄様の声が中から聞こえた為、『失礼します』と一声かけてから扉をあけた。
「え!?ルージュ!?」
普段は断りなく勝手に部屋に入るため、お兄様は驚いていた。
「う…お兄様、少しお話があります」
「え、ええ!?どうしたんだい!?」
丁寧に話したが、普段敬語なんて使わない為、更に驚かせてしまった。
「あのね…実は私!」
「う、うん。どうしたの?」
「…」
「…」
「…!」
「…ん?ルージュ?」
選択肢の呪いの事を伝えようとしたが、声が出ない。
やっぱり呪いは本物らしい。伝えようとしても声が出なかった。
「…はぁ」
私は選択肢の事について、伝えるのを諦めた。
「ル、ルージュ?」
お兄様は心配そうな顔でソワソワしている。
「ああ、ごめんなさい。お兄様に私、謝りたくて…」
「え?謝る?何を?」
私はゲームの内容を思い出していた。
私のお兄様であるアレン=ホルダーは、ゲームのメインヒーローだ。
アレンは甘やかされたルージュに代わり、厳しく育てられた。
愛情を受けずに育ったアレンは、愛というものを理解できず、それが当たり前だと思っていた。
そんなアレンに愛を教えてあげるのが、主人公だ。
主人公と関わっていくうちに愛を知り、自分の家やルージュがおかしい事に気付く。
ことごとく主人公に嫌がらせをするルージュを注意もしていたが…
ゲーム終盤のお兄様の卒業式。つまり私たちの1つ上の先輩方の卒業式ね。
そこでアレンからの告白を受ける主人公。
すると、その場でルージュがナイフを持って主人公に襲い掛かる。
主人公を守るため、アレンはルージュの手首を捻り…そのまま胸に突き刺すのだった。
手首を捻るだけでもナイフは落とせるだろうし、胸に突き刺すまでしなくても…と思うかもしれないが、それだけ18年もの間アレンが苦しめられたという事だろう。
そんな、人が1人死んだという状況だが、ゲームのプレイヤー達からの批判は少なかった。
そもそも選択肢によって、主人公は何度も死んでいるのだ。
最後に悪役が死んだ所で、あまり思う所は無かっただろう。
このエンディングからも分かる通り…
ゲームでの私は10歳で呪いを受けた事で余計にワガママが加速し、貴族として学ぶべき事を放棄し、お兄様に全てを押し付けた。
自分はパーティやお茶会など、楽しい事だけ参加した。
TRUE ENDを見れば、根は良い子だと分かるが…本当にそれ以外では最悪だ。
主人公がお兄様ルートに進んだ時に、せめて殺されないようにしなくては!
「お兄様、今までごめんなさい」
「どうしたんだい?ルージュ」
お兄様は慌てている。
「聞いて欲しいの。今まで私は、お兄様に全てを押し付けてしまっていたわ。貴族としての教育も受けず、マナーも今まで悪かった。きっと、私の素行の悪さでお兄様も笑われてしまっていたと思うの。だからね、今後は私もちゃんと教育を受けるわ!」
私が意を決したようにそう言うと、心配そうにしながらもお兄様は冷静に話していた。
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