第3話
目を覚ますと、心配そうに私を見つめる父の顔があった。
「お父様…?」
私が声をかけると、涙目になりながら母も駆け寄ってきた。
「ルージュ、具合は?大丈夫なの?」
「え、ええ…大丈夫。私、倒れちゃったの?」
「そうね。だけど熱も無いし、少し休めば大丈夫だそうよ。今日はゆっくり休んでちょうだい。何かあったらすぐにメイドを呼ぶのよ?」
お母様は心配そうに私をのぞき込む。
ああ、本当に私は愛されているんだな。
私は泣きそうになる気持ちをグッと抑え、笑顔で返した。
「大丈夫!すでに良くなってきているし、今日1日休めば治ると思うわ」
「ルージュ。もし今日で体調が良くなるなら、私の所に来なさい」
「ちょっと、あなた!今日は休ませても良いでしょう!?」
お父様の言葉に、お母様が反論する。
「お母様、大丈夫よ!もし良くなるようだったらお父様の所に行くから…」
「うん。無理はするな。ゆっくり休んでから来なさい」
お父様はそう言うと優しく微笑み、お母様に怒られながら部屋を出て行った。
「お嬢様、何か必要なものはございますか?」
側で待機していたメイドが私に近づいてきた。
「あ、いいえ。大丈夫よ。必要なものがあれば呼ぶから、それまではゆっくりしていて」
「かしこまりました。何かあればすぐにお呼びください」
「うん、ありがとう」
私がそう言うと、メイドはお辞儀をして部屋を出て行った。
「…さて、これからの事よね」
私は思考を張り巡らせる。
今の状況を整理するのと、ゲームの内容を思い出す事にした。
まず、この世界は昨日思い出した通り『コイガク』で間違いないはず。
主人公が5人の攻略対象から好きな男の子のルートに進み、それぞれのエンディングを迎えるのが目的の恋愛ゲームだ。
勿論、選択死をかいくぐりながら。
5人の攻略対象はそれぞれ、『アイウエオ』から始まる名前になっている。
「ルージュッッ!!」
私が考え込んでいると、ノックもされずに扉が開かれた。
本来であればノックをしない事はあり得ないのだが…
扉を開けたのは、慌てた様子のお兄様だった。
「ルージュ!大丈夫かい?昨日は突然体調を崩したと聞いて、僕も心配で心配で…」
お兄様が私に抱き着きながら、そう言った。
そう、この抱き着いている兄。
アレン=ホルダーも攻略対象の1人なのだ。
「お兄様、大丈夫で…」
私は言いかけて、昨日のBルートを思い出す。
1度選んで、死んでしまったルートだ。
どうしてそうなったのかは分からないが、あれは確実に…兄に殺されたのだ。
まるで夢だったように感じていたはずだが、いざ兄と顔を合わせると冷や汗が流れてくる。
「ルージュ?ああ!ごめん!まだ体調も良くなっていないはずなのに」
私が黙ってしまった事に異変を感じた兄は、慌てて私から離れた。
目の前に私を心配してくれている兄がいる。
いつもの、優しい優しいお兄様。
私は泣きそうになる気持ちをグッとこらえ、深呼吸をした。
「お兄様、大丈夫です。昨日は急に吐き気がしてしまったの。でも今日一日休めば治ると思うから。心配してくれて、ありがとう」
そう、笑顔で伝えることができた。
今までルージュとして生きてきたんだもの。
兄に心から愛されている事ぐらい、分かっているわ。
昨日の死はきっと、何かの事故よ。
「ルージュ…良かった。じゃあ今日は僕も自分の部屋に戻るよ。ルージュもゆっくり休んでね」
「うん!そうする。ありがとう、お兄様」
そう言葉を交わした後、兄は私の部屋から出て行った。
その後、私は机に向かい改めて現状をまとめてみる。
まずは私について。ルージュ=ホルダー。それが私。
コイガクの主人公を邪魔する悪役令嬢だ。
主人公が攻略対象と仲良くしようとすると、わざと割って入って邪魔したり、主人公の悪い噂を流したり。時には直接、攻撃する事もある。
目はパッチリしているが少しだけ釣り目で、ウェーブがかかった真っ赤な髪はより一層悪役令嬢らしさを感じさせる。
ただ、悪役令嬢と言ってもコイガクのプレイヤーからは人気が高く、グッズも売れに売れていたはずだ。
次に、主人公が選択死を避けながらプレイするゲームで、どうして悪役令嬢である私が選択肢を迫られているのか?
答えは簡単。実は主人公と同様、悪役令嬢のルージュも選択肢に悩みながら生きていたのだ。
そもそもこのゲーム、ある条件を満たした時に真実のエンディング…
その内容が、実はゲームとしてプレイしていた選択肢の存在を主人公は理解していたというものだ。
子供の頃から1つは死に導かれる選択を行いながら生きてきた。
それを他人に話す事は許されず、秘密を抱えたまま学園生活へ突入する。
そして学園で出会うイケメン達と恋をする。
だが、あるルートに進むと悪役令嬢ルージュが実は自分と同じ選択肢持ちだと気付く。
選択肢の事を誰にも話す事が出来なかった2人だったが、同じ選択肢持ち同士だと話す事が出来ると気付く。
お互いにこれまでの事を色々と話していくうちにルージュが実はとても良い子だという事を知る主人公。
主人公にしてきた意地悪な態度は全て、ルージュの選択肢によるものだったのだ。
本当は仲良くしたかったが、死なない選択肢を選ぶとどうしても意地悪をするしか無かったのだと涙するルージュ。
それから2人は仲良しに。
これが
ちなみに、この場合は男性の誰とも結ばれないが、男性全員が主人公に好意を持っている、ハーレムエンドでもあるのだ。
つまり…
「このエンディングは凄く良かったなぁ」
私は自分がプレイしていた記憶を、しみじみと思い出していた。
やっぱり何と言ってもルージュだ。今まで意地悪な態度しか見られなかったルージュの笑顔、優しい言葉。
プレイヤーからの人気が高いのもこのエンディングのおかげだ。
かく言う私も、ルージュのグッズを買おうとしたがすぐに売り切れになってしまい、買えなかった思い出がある。
まさか、そんな悪役令嬢に転生してしまうなんてね。
私は自虐的に鼻で笑った。
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