人生のバイブルに出逢う塾


 僕は、子どもの頃テレビに映る、志村けんをみて、漠然とテレビを作る人になりたいとおもった。

 バブル絶頂期に青年期を迎え、世界のスターが続々とコマーシャルに出ているのを観て、彼らと一緒に仕事できるなら、テレビ番組よりCMだな、大好きなデヴィッドボウイにも会えるかもしれないと、大学を卒業する頃には、バブル期はすっかり終焉をむかえていたが、邪すぎる野望を胸に広告業界で働いてきた。結局、志村けんにもデヴィッドボウイにも会えなかった。

 

 先日、ノーベル賞をとった吉野さんが、「ロウソクの科学」というファラデーの著書を読んで科学を志したという話を聞き、特に深い考えもなく「ロウソクの科学」をよんでみた。科学にはまったく疎いのだが、目から鱗が落ちたような感覚があった。トヨタがCMしている水素エンジンとカーボンニュートラルの話も、「そう言うことか」という妙な納得感を得ることができたり、豚の角煮を作った翌日、鍋に浮いてる豚油でロウソクを作って、火をつけてみたりと、意外なほど科学の面白味にハマってしまった。


 しかし、今となってはもう遅い。五十路に手が届こうかという、僕には今更、科学者への方向転換は望めない。それにしても、若い時期に自分の進むべき道を見出すことは難しい。若いうちに学ぶことが大切だとは、わかるが国語、数学、理科、社会、英語と、進学が目的の目先のノルマに大きな時間を費やしてしてしまいがちで、学校生活の中から、人生をかけて取り組みたい学問に出会う人など一握りではないだろうか。


 若いうちに、謂わゆる「人生のバイブル」に出会うことはその人の一生を豊かにする最も大切なことであるはずだが、そこにかける時間も労力も実は少な過ぎるのではないだろうか。


 そこで僕は空想を始める。


 学習塾の代わりに通える「人生のバイブルに出逢う塾」を設立してはどうだろうか。

 生徒達は、その道の一線で活躍する学者やスペシャリストの特別講義を毎回受講する。講師達は、生徒である子どもたちに自分の専門分野の魅力をプレゼンテーションする形をとる。


 いわゆる講演会ではなく、塾の授業として、毎回さまざまな分野のスペシャリストがやってきて講義する。実験や実演があってもいい、たまには宇宙からリモートでなんて話があっても夢がある。

 一年を通して、ありとあらゆるスペシャリストに出逢うことができるのだ。


 こうして、何人もの話を聞き、自分の進むべき道の手がかりを見つける。その上でその道に進むべき学問を学校生活や塾で学ぶ方が、勉強にも身が入るのではないだろうか。


 おそらく、個人差はあるが、小学校高学年から高校の一年生くらいまでに、この塾に一年通ってみたらどうだろう。

 

 人生のバイブルを若いうちに見つける手助けをする、「人生のバイブルに出逢う塾」に、いわゆる塾より先に通う習慣ができれば、新しい教育のスタンダードになるのではないか。

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