空想出店計画
郭廉讎
よく釣り銭を間違う本屋
「なんか儲かる話はないかな。」
いつも考えはするけれど、実際に行動に移す勇気もモチベーションもなく、
そのほとんどの話が酒の肴になって消えていく。
自身の行動力のなさに辟易とするのであるが、
少しだけアクションを起こそうと、
これまで思いついたことを一念発起し、
こうして書き留めることにした。
大学生の時、本屋でバイトしていた。
家庭教師などの他のバイトに比べると、当時時給780円と決して高いとは言えなかったが、経営者のおじいさん(当時は店長と呼んでいた)と仲良くなっていて、お昼にお寿司を買っていただいたり、なんだかんだと優遇されていたので、一番、続いたアルバイトだった。就職し、社会人になってからも土、日曜だけ入ってくれといわれて、請われるがまま、結局、学生時代4年、社会人でこっそりアルバイト2年、計6年間働いた。社会に出て会社を3年から5年スパンで会社を転々とした僕には、振り返ると今のところ一番長く続いた職場といえる。
前置きが長くなったが、今はその本屋も廃業し、ファミリーマートに変わっている。どこの駅前も同じだが、一部の古本屋などを除けば、個人経営の書店はほとんど姿を消してしまった。
先日、本のお使いを頼まれた。″進撃の巨人最終巻″。Google検索してみたが、最寄りの駅周辺には本屋は見当たらず、コンビニは売り切れ。結局、わざわざ途中下車してターミナル駅のブックファーストに立ち寄る羽目になってしまった。
Amazonなんかで本も買えてしまう時代。個性的品ぞろえや空間演出で、独自性を売りにするコアな書店もあるが、駅前でオールターゲットの要望に応える、一般的ないわゆる本屋さんを個人経営することは、なかなか難しい時代である。
コンビニエンスストアは駅前だけで、4、5軒もあるのに本屋が一軒もないなんて全然、コンビニエンスじゃない。こんな時代でも駅前で生き残れる本屋さんを経営できないものか。
僕は空想をはじめる。
他の商品と異なり、本は売れなければ、基本的に問屋さんに返品が可能だ。その代わり割引販売は原則として禁止されている。大手の書店であれば、ポイントカードなどを発行し実質的には割り引き販売に近い事をおこなっているが、個人商店ではなかなか難しいのが現状だ。つまり、ネット販売の便利さはさておき、実店舗で選ばれる店にもっとも求められる独自のサービスとは、ポイント還元以上のお得感の訴求、つまり割引販売ではないであろうか。しかし割引はご法度である、では、故意ではない割引はどうだろう。
つまり、うっかり釣銭を間違うのだ。
店頭にこんな貼り紙をするのはどうだろう。
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お客様各位
当店の店主は、とてもうっかり者です。
よく釣銭を間違えます。
ご確認いただき、
おつりが少なかったときは速やかに
ご指摘ください。
でも、少しだけ多かったときは
あなたの微笑みだけをお返しください。
店主
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うっかり者の店主が、
始めた新サービスの本屋。
利益率の少ない商品だけに
大幅な釣り銭の間違いはできないけれど。
会社帰りに寄った本屋さんで雑誌を買う。
いつも、少しだけ釣り銭が多い、
一日の最後にちょっとした
ラッキーを体験できる。
そんな素敵な本屋さん、あったらうれしい。
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