第32話 【番外編・其の四】 ~ゲームセンターCP(Crime and Punishment(罪と罰))~
僕はアミューズメント施設、
最初に言っておきますと、僕はこの職場でお店にマイナスとなる、二つの罪を犯してしまいました。
うちのお店で圧倒的シェアを占める二大遊技設備が、プリントシール機(以下「プリ機」と称する)とクレーンゲームです。
僕の罪は、この二大稼ぎ頭である機械に纏わる話なのです。
まずはプリ機の話です。
うちのお店では、当店オリジナルの「プリ機専用スタンプカード」なる物を配布しています。プリ機を利用する前に僕達スタッフに声をかけて頂きましたら、一度のご利用に付き、カードに判子を一つ押してあげます。その判子が十個貯まりますと、プリ機が一回分無料となるのです。
また、うちのお店の近所には中高一貫の女子高がありまして、放課後の夕方時間なぞは女子中学生さんと女子高生さん達でお店は溢れ返ります。そして、これなるスタンプサービスが、
僕は時に自己判断で、そんな女学生さん達にスタンプを多めに押してあげたりしています。例えば、残り二つの判子でスタンプカードがコンプリートみたいな状態だと、物凄くラッキーに感じますよね。
当然ですけれども、これに女学生さん達は無茶苦茶喜びます。そうやって笑顔になってくれるお客さん達を見ると、こっちまで嬉しくなってきちゃいます。
さあ、勘のいい方ならもう既にお判りでしょうが、ここで僕の犯した一つ目の罪を告白します。
それは僕自身が、この女学生さん達の幸せな顔を見たいが故に、今現在もスタンプカードの不正行為を継続しているのです。最近では一挙に三つも判子を押してしまうだとか、オマケの度合が酷くなりつつあります。
言うまでも無く、これはお店の売り上げ的にはマイナスです。もし他人様がこの話を聞けば、「随分軽めの罪だな」と感じるかもしれませんが、罪は罪です。
以上で、これが一つ目の罪となります。
続きまして、次が二つ目の罪であるクレーンゲームの話です。
こちらに関しても、当店独自のサービスがあります。お客さんがクレーンゲームをプレイされている際に、数回チャレンジしても景品が取れていない場合は、その景品を取りやすい形に設置し直して差し上げるのです。
さて、そんなクレーンゲームに毎日興じる常連さんが一人いらっしゃいます。大体閉店間際の同じ時間帯に来店され、見た目も何の変哲も無い中年太りのおじさんです。
そのおじさんは、どんな時でも必ず派手目の衣装を纏った美しい女性と同伴で来られます。因みに女性は毎回違う人で、見た目からして水商売の方々ですね。恐らくはキャバクラ辺りのアフターでしょう。
それにしても、このおじさんのクレーンゲームプレイが、超の付く下手さ加減でしてね。
それで例によって、僕が景品を取りやすい位置に並べ直す訳ですが、それでも中々ゲット出来ないのです。
クレーンゲームに大金をつぎ込んでくれるこのおじさんは、最初の頃は間違い無く太っ腹なお客さんでした。中年太りなだけに。
しかし、おじさんは毎日来られるものですから、その内に僕とも顔なじみになってしまい、今では入店と同時に僕を呼びつけ、初っ端から景品の位置相談を持ち掛ける様になりました。
僕は「流石に何度かプレイして頂かないと無理です」と言う旨を正直に伝えましたが、軽くごねて聞き入れてくれませんでした。仕舞いには百円玉を渡されて、景品を寄越せと脅して来る始末です。
そんな感じですので、今やこのおじさんは初期の頃みたく、お店に沢山のお金を使ってくれるお客さんでは無くなってしまったのです。
そんなある日に、相も変わらずこのおじさんが、
それも其の筈です。その女の子は僕と現在交際中のガールフレンドだったものですから。
後日彼女から聞き出した話によると、自分のお給金だけではお小遣いが
いかなる理由があったとしても、自分の恋人が他の男性と一緒に遊びに行くと言う行為は、どんな人でも気分のいいものではないでしょう。
そんな事があった数日後に、例のおじさんはお店にぱったりと来なくなってしまいました。
さあ、勘のいい方ならもう既にお判りでしょうが、ここで僕の犯した二つ目の罪を告白します。
僕はこれなる彼女とおじさんの一件を、どうしても許す事が出来ませんでした。
お金を出し渋り始めたこのおじさんは、最早お店の売り上げ的には、女学生さん達のプリ機以下と成り果てた存在です。
ですので、僕の得意とする、ザ・自己判断にて、おじさんを殺害しました。
まあ、やはりこれもお店の売り上げ的にはマイナスです。もし他人様がこの話を聞けば、「こっちも随分軽めの罪だな」と感じるかもしれませんが、罪は罪です。
以上で、これが二つ目の罪となります。
あっ、ですが安心して下さいませ。
おじさんはクレーンゲームをこよなく楽む人でしたから、遺体はきちんと工事現場のクレーン車で首吊り状態にしてあげましたので。
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