第31話 【番外編・其の三】 ~受付嬢の裏事情~

 私は年商数兆円の某企業の東京本社受付に勤めています。


 受付嬢の採用基準はずばり顔です。大手になればなるほど顔採用です。差別だの不公平だのとの声は一部ありますけれども、美形が就活で有利なのは事実ですし、都市伝説でもなんでもなく、これが現実です。


 しかも、我社は短期間で急速な成長を遂げました、所謂いわゆるイケイケのIT企業です。ですので、受付嬢に求めるのは容姿端麗が全てです。何ならモデル級のプロポーションだとマッチベターなのです。


 ですが、そこをクリアーしても無愛想では全く意味がありません。


 受付嬢は兎に角笑顔です。飛切りの愛想を振りまく絶世の美女。そして、誰もが振り返る美人。かくの如き条件を満たし、選び抜かれたその一人が私って事になりますね。


 勿論、私達は受付で只単に座っているだけではありません。


 来客のご案内・お取次ぎに加え、事務処理も業務の一環です。綺麗さだけが取り柄の、頭空っぽな阿呆女では土台お話になりません。


 あとは「受付に人を置くなんて時代遅れだ!」と言う声も少なくないですが、会社にとって受付に女性を終日置いてると言う事は、それ程うちの会社は余裕があると言っている証明です。やれやれ、これだから最近の若害は(笑)。


 さて、こんな私ですけれども、自身の魅力をフルに活用し、来客を誘惑するのが密かな楽しみだったりするのです。


 ええ、ぶっちゃけ「いい男」探しの一環です。言わずもがなですが、それで釣れた「いい男」は性的な意味で頂戴しちゃいます。


 ……まあ、殆どがワンナイトラブなのが目下の悩みなんですけどね。いやはや、滅多に居ないのですよね「いい男」って。


 そうそう、当たり前ですが、会社の受付にナンパ目的で来られる人は皆無です。来客される方も大方がお仕事中な訳ですし、その様な気分になる人種は稀でしょう。


 ところがどっこい、それはそんじょ其処らの凡人女が受付をしていたらって話です。


 この私が受付を担当しましたら、そのナンパ率は急速に跳ね上がります。九分九厘は確実に男性からのお誘いを受けますからね。


 何故って単純明快。私の可憐さと素敵スマイルさえあればイチコロってな話ですよ。


 まあ、受付嬢と言う存在は正に会社の顔ですし、こう言った行為を頻繁に繰り返しておれば、変な噂を流されかねません。


 ですけれど、相手が「いい男」そうですと、ついついやってしまうのですよね、色仕掛けってやつを。


 ともあれ、その辺は私も慎重な行動を心掛けておりますのでご安心を。


 さてさて、今日も今日とて、こうして一人の男性と対面で応対をしている真只中です。


 一見すると強面なのですが、中々の「いい男」指数が高めの渋い系おじさまです。


 んもう、仕様がないですから、このお方も私の魅力で虜にしちゃいましょうかね。


 うふふ、とことん罪な女ですね、私って。


 さあさ、頑張っておじさま。愛の言葉を囁きながら、見事この私を口説き落としてご覧なさいな。


「はは、流石は現役の受付嬢ってだけの事はありますね。なんてったってその微笑は最高だ。では、そろそろ取り調べを始めましょうか。男性連続殺人事件の犯人さんよ」


 ……そう、私の「いい男」の条件と言うのは、「別に殺してもいい男」ですので。


――*


「……以上です。如何でしょうか、先生?」

「ふむ。成る程。今日のお話も大変興味深かったです。いやいや、随分とソフトな内容になってきましたね、貴女の妄想も。この前から弱めのお薬に切り替えましたし、退院も間近ですな」

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