第30話 【番外編・其の二】 ~好きな人を殺したい 『悲しき性』~
俺には四人の兄貴が居るのだが、何れも優秀であり、各々が組織の要である企業の代表を担っている。
末っ子である当の俺はと言えば、一番の落ち零れで穀潰し。何せ底辺大学を卒業するのもギリギリで、その後はニート生活を貪り食う体たらくだ。
所が、これに業を煮やした親父は、世間体用のダミー会社を設立し、そこの社長に俺を据え置いたのだ。当然、この肩書きは単なるお飾りなので、実質すねかじりの時と何ら変わりはない。
言うに及ばず、何の不自由もない暮らしだ。望めば毎日だって高級料理を食べられるし、大抵の欲しい物は即日入手可能のブルジョワジーライフである。そう、誰もが羨む、完璧な人生イージーモードってやつだ。
だが、そんな十全に見える俺の生活にも若干の綻びがあり、何を隠そう、その原因は俺が抱える悪癖の
それは、好きになった異性を殺したくなってしまい、
全くもって、この「心を寄せる気持ち」ってもんは、自らで抑止出来ない事象であるが故に、俺からしたら
俺のこの歪んだ心緒に対して、もしも他者から「何ゆえに?」などと聞かれれば、「そうであるから」としか答えようがない。
人の三大欲求が死ぬまで無くならない様に、俺のこの衝動も消え失せはしないのだから。
そう言えば、人間に四つ目の欲求を強制的に植え付けてしまう代物が麻薬である。
話を戻そう。
既に幼少時からこの兆候はあり、好きな女の子の首を絞めて問題になった事があった。
この際に多方面からこっぴどく叱られ、「これをやらかすと騒動になるのだな」と幼心に学習した俺は、暫くはリビドーを無理くり抑えつけていた。
そうして思春期を迎える頃になると、恋をする回数も増えて来た。
一応中学・高校で何人かの女子とお付き合いをする事はあったのだが、何かと理由を付けて、すぐに別れる方向へと持って行った。
だって、このままだと、彼女らをこの手に掛けてしまうからな。
だがしかし、無理矢理に抑制していた、この凶暴な病魔がついに暴発してしまった。
そう、初めて人を殺めたのは大学に入ってすぐだった。
何の事は無い。出会いが増えて、長く付き合って、我慢が出来なくなって、こうなっただけの話である。
それにつけても、女を傷付ける際に、全身を駆け巡るあの凄まじきエクスタシーよ。
あれだけ気持ちの良い行為を、どうしてもっと早くに実行しなかったのだろうか。
そんな事は皆まで言わずとも分かっている。殺人事件に発展しちまうからな。
そう、本来ならば大騒ぎになってしまう本案件だが、世間的には一切知られる事は無かった。
ふふ、もうお分かりだろう。
そんな物、親父の
親父規模の交流関係ともなると、大なり小なり裏社会との繋がりが生じてしまう。たとえそれが、不本意であろうとなかろうと。
しかし、今回の俺のパターンの様な血生臭い案件を発生させてしまった場合、
俺が
掃除屋とは、表向きには公表できない死体処理を請け負ってくれるプロフェッショナルで、物の見事に、跡形もなく、綺麗さっぱり処分してくれた。
その掃除屋曰く、日本における失踪者は年間8万人超らしい。なので、高が一人や二人が行方不明になったとて、何ら不思議はないし、そう言った理由から仕事の依頼も引っ切り無しだそうな。
この事実を掃除屋から聞かされた俺は、「だったら揉み消し楽勝じゃん。あーあ、今まで我慢していて損しちまった」と、この時よりすっかり味を占めてしまったのである。
俺の中で
おっと、ここで誤解しないで欲しいのは、飽くまで俺は、「好きになった人」しか殺したくないし、殺さないって事だ。
頼むから「人であるならば誰でも良い」みたいな、猟奇殺人、もしくは快楽殺人を繰り返す、その辺の二流・三流サイコキラーと一緒にしないでくれ
その証拠に、俺は今迄に九人しか
この事で少しだけ残念な事柄が二点程有る。
一つ目は、俺が人を殺している場景を、写真や動画に収める事が出来ない点だ。
わざわざ証拠を残してリスクを上げる何て事は、馬鹿の極みだからな。あの光景は、俺の心に深く刻みつける事以外に、方法が無いのである。
なので、「彼女達は俺の心の中でずっと生き続けているから」と自分に言い聞かせて、半強制的に納得させているのが現状だ。
続いて二つ目だが、俺だって一応人の子だ。やはり殺しの詳細何かを、
誰でも楽しい事や嬉しい事があれば、他人に話したいだろう? ふふ、是非とも聞いてもらいたいものだ。
……あーでもなー、如何なるやり方で殺害したのか。或いはその時の彼女はどんな表情で、どうやって死んで行ったのか云々は、何と言っても俺だけの美々しい思い出である訳で、結局は俺の胸の内に留めておく事が一番ベストなんだよなー……。
うーん、実に悩ましいね。
さてさて、ここに来て、そろそろ記念すべき十回目の殺人を犯す事になりそうなのだ。
もう一年前になるのか。我が社(笑)に新入社員として入社した麗しき女性が居る。
彼女は親父の知人の娘さんで、俺の専属秘書として雇用する事となったのだ。俗に言うコネ採用ってやつな。
彼女は生粋の箱入り娘で世間知らず。「~ですわ」みたいな、お嬢様言葉を駆使し、一人称は何と「わたくし」だ。
まるでアニメか漫画の世界から飛び出して来たキャラクターかの如く、超絶浮世離れした彼女に、俺は一発で惚れた。
俺は直ぐ様、彼女に想いを伝えると、彼女も俺の事はどストライクだったらしく、二人は速攻で交際する事となった。
……悪いな親父よ。あんたの知り合いの娘かどうか知らんが、この
そんな訳で、今回は約一年もの時間を掛けて、殺しまでの過程も、じっくり余さず味わい尽くす事にしたのだ。
これによって育んだ甘美なる記憶は、いざ殺害に到ると言うその刹那より、極上のスパイスへと昇華されるものでね。
ふふ、よもや彼女の誕生日当日に、俺から「死」と言うプレゼントを贈られようとは、夢にも思わないだろうな、ふふ。
*
……ここは人殺し目的の為だけに、特別に用意した部屋である。
完全防音で、例え大声を出されたとしても、絶対に外に漏れる事は無い。
おや? そうこうしている内に、
程無くして、次には驚愕の表情を見せてくれる。
ふふ、これだよこれ。
何度見てもゾクゾクする。
猟奇物の創作物や、偽物のスナッフフィルム映像では、決して得られない感動だ。
あらら、
悪いけれど、君はこれからこの場で殺されて、惨たらしく死する道しか残されていない。
さあ、楽しい宴の始まりだ。
「ふふ、実を言えば、好きになった殿方を殺したくなってしまい、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます