第27話 件

 ~くだん……19世紀前半ごろから日本各地で知られる妖怪。「件」(=人+牛)の文字通り、半人半牛の姿をした妖怪として知られている。その姿は、古くは牛の体と人間の顔の怪物であるとするが、第二次世界大戦ごろから人間の体と牛の頭部を持つとする都市伝説も現れた。幕末頃に最も広まった伝承では、牛から生まれ、人間の言葉を話すとされている。生まれて数日で死ぬが、その間に作物の豊凶や流行病、旱魃、戦争など重大なことに関して様々な予言をし、それは間違いなく起こる、とされている。また、件の絵姿は厄除招福の護符になると言う。別の伝承では、必ず当たる予言をするが予言してたちどころに死ぬ、とする話もある。また歴史に残る大凶事の前兆として生まれ、数々の予言をし、凶事が終われば死ぬ、とする説もある。※フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より抜粋~


 私はとあるローカル新聞社の編集局関係者です。……とまあ、ちょっとばかし格好よく言ってはみたものの、実際は正社員や記者や編集部員と言う訳でもなく、只の臨時職員で編集部の庶務課に属しているだけと言うね。


 その編集部庶務の主な仕事内容ですが、資料作成やデータ入力・ファイリングなどのデスクワークを基本として、新聞記事のスクラップ作り、電話対応、来客対応、備品の補充、記者の出張費等の小口金管理、伝票処理、社外での用事を頼まれたり、郵便物を出しに行ったりする様な外出する任務、応接室や給湯室等の清掃作業と言った担務etc.と内容は多岐にわたります。


 よく雑用係だと言われる庶務ではありますが、部署の業務をスムーズに進めていく為には欠かす事の出来ない責務を担っており、縁の下の力持ちであるのが庶務なのです。……ってな感じで、つい先日直属の上司さんから飲みの席で熱心に力説されましてね。それからは私も、これなる庶務と言う仕事に誇りを持って従事出来る様になりましたとさ。めでたしめでたし。


 さて、そんな庶務課で一番忙しく、相当重要な部類の職務が、通信社(取材した内外のニュース・写真や論説、更には漫画や小説等を、主として報道機関 (時には官庁や商社や個人等) に提供する機関or事業体)からファクシミリ形式で送られてくるニュース(イメージとしては、少し大きめのレジスターのレシート用感熱紙)を、各編集担当者さんに手渡しで届けると言う作業です。この通信社の存在により、新聞社や放送局は、自ら取材が困難なあらゆる場所で起る全国ニュースや国際ニュース等も、読者・視聴者に伝える事が可能になるのです。


 そうやって伝送されて来ます新報を、私達庶務の者が、パソコンで編集作業中の各編集部員さんの席へと持って行くのです。その編集部員さん達の事ですが、社会面なら社会部、政治面なら政治部、経済面なら経済部、スポーツ面なら運動部みたいに、紙面毎に事細かく役割分担が決められている仕組みです。ですので、これに関して私達の勤め自体は単純労働なのですが、割柏わりかし小まめに動き回る御役目だったりする訳なのですね。


 それと、くだんの情報が印字された用紙は二十四時間を通して、留め処なく送信されて来ますもので、庶務課の人間が日替わり&交代で受け持っているのです。その為、夜間はアルバイトの大学生さん達が請け負ったりしています。


 因みにですね、私は日中勤務のシフトですので、主に夕刊の発行業務に携わっております。


 そして、正に戦場と呼ぶに相応しい時間帯と言いますのが、この夕刊発行前の昼頃なのです。


 何にも増して大変なのがゲラを確認する時です。ゲラとは「ゲラ刷り」の略で、校正(誤字脱字のチェック等)を行う為の紙面見本であり、「校正刷り」や「試し刷り」とも呼ばれています。簡易的に印刷されたゲラを手分けして各持場(編集局の全部署)に配るのも庶務の役回りであり、このゲラチェックは夕刊刊行迄のごく短時間で終えねばならず、その上途中で速報等が入った場合には、記事の中身が大幅に差し替えられる事も多々あります。


 本パターンが発生したシチュエーションでは往々にして、てんやわんやの大騒ぎとなってしまうのです。


 この様な状況が、基本的に毎日行われているのが新聞社と言う職場です。これは大手新聞社であろうが、地方新聞社であろうが、大体何処も一緒であると思われます。


 私は身を以て現場に関与している者として、今日は一言言わせて頂きます。


 これだけの情熱と労力を注いで出来上がる物が、朝刊ならば一部百五十円で、夕刊ならば一部五十円です。正直可成かなり安くてお買い得だと思っています。


 近年は新聞紙・夕刊紙共にめっきり部数を減らし続けております。願わくは皆様方、是非共購読しておくんなまし(泣)。


 ……まあ、昨今はネットで最速の報道が無料で閲覧出来ますし、それで十分満足だよと消費者様に宣言されましたら、弊社としても返す言葉が見つからないのですがね(涙)。


 さあさあ、そんな修羅の如し慌ただしいうまこくを何とか乗り切り、恙無つつがなく夕刊がリリースされますと、比較的平和で落ち着いた時間が訪れます。


 ここで編集局スタッフ一同も、ようやっと一段落出来るのです。


 そうなると、発信されて来る新着情報のスピードも少しペースダウンを致しまして、私自身もニュース記事に余裕を持って目を通したりも可能な訳です。


 いやはや、本当に驚いてしまう一報も日々あるなと思えば、それとは逆に心底下らない報知もままあるのが実状です。


 おっと? そうしていましたら、こいつは噂をすれば影が射すと言う奴ですね。早速本日も、並外れて稚拙なお知らせが舞い込んで参りましたよ。


 ……うーわ、今日の通知は特に馬鹿馬鹿しくて酷いなあ……と言いますか、この様なハリウッド制作のSF映画ばりの与太話って、最早しょうも無いを通り越して、フェイクニュースの域に達していると思うのだけれど……?


 ええっと、その内容とはですね、何と突如として地球外知的生命体が武力を伴い襲来・侵攻。本日午後をもちまして、地球人対異星人の全面戦争が急遽勃発。これに際して世界各国が一斉に核ミサイルを発射したんですってよ。


 絶句からの苦笑。はは、冗談も休み休み言いなさいな。エイプリルフールはまだまだ先だよってーの……って、何々? ……え、ちょっと待って、何これ? 外の景色が突然真っ赤に染まったと思ったら、凄まじき衝撃波と共に全ての窓ガラスが割れぎぃゃあああああぁぁぁ――。

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