第20話 天邪鬼

 ~天邪鬼……悪鬼神もしくは小鬼、また日本の妖怪の一種とされる。「河伯」、「海若」とも書く。民間の説話においては、人の心を察して口真似などで人をからかう妖怪とされるが、地方により伝承が異なる。秋田県平鹿郡、茨城県稲敷郡、群馬県邑楽郡、静岡県田方郡などでは、人の声を真似ることから木霊や山彦が「アマノジャク」と呼ばれ、山中の声の反響はアマノジャクが声を真似しているなどという。岩手県九戸郡では天邪鬼が炉の灰の中にいるといい、東北地方では天邪鬼は蛹のこと、秋田県仙北郡角館ではチャタテムシのこととされる。また、同県の平鹿郡(現・横手市)での俗信では、嬰児はアマノジャクが子守をして泣かせないと言われていた。「人の心を見計らって悪戯をしかける子鬼」とされることから転じて、現代では「他者(多数派)の思想・言動に逆らうような言動をする"ひねくれ者"、"つむじ曲がり"」を指して、「あまのじゃく(な人)」と称されるようになった。※フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より抜粋~


 僕は役者の卵として夢を追い、演技力を磨く為、アクター養成所でのレッスンに日々明け暮れている。


 その中で将来有望な才能を持った優等生が一人居て、他のレッスン生はおろか、講師の先生も絶賛する度合いなのだ。悔しきかな、誰もが認める演技派である。


 優等生曰く、やはり役作りに没頭し、その役になりきる事が大切なのだという。さあれども、そうやって役に入りすぎると、暫くは本来の自分に戻って来られないのがたまきずらしい。


 そう言えば、かつて有名な外国人俳優の誰かしらが、この優等生と同じ事を言っていたっけか。


 この事に関して、僕がお世話になっている、今も現役でTVドラマや映画などで活躍している先輩男優さんに尋ねてみた。


 すると、「そんな演者も中には居るみたいだね。けれど、俺の周りでそんな人物は見た事が無いし、自分自身もそんな事は有り得ないなあ」と笑っていた。


 なるほどね。まあ、本案件に限らず、どのような物事であれ、結局は「人それぞれ」って所に落ち着くんだよな。


 そうだ。人は人、自分は自分。僕は僕のやり方で、己が芝居道を邁進まいしんしようと心に誓った。


 それから数日後、例の優等生が山奥のキャンプに出掛けると言ったきり、そのまま行方不明となってしまったのだ。


 ここだけの話、今回の演技レッスン用の台本なのだが、優等生の受け取る分にだけ、密かに僕が細工を施したのが原因であろう。


 優等生の役柄を、「野生の鳥獣」に改変してやったので。

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