第14話 朧車

 ~朧車おぼろぐるま……鳥山石燕による江戸時代の妖怪画集『今昔百鬼拾遺』にある日本の妖怪の一つで、牛車の妖怪。石燕の画図では、半透明の牛車の前面の、本来なら簾がかかっている場所に巨大な顔のある姿で描かれている。解説文では、「むかし賀茂の大路をおぼろ夜に車のきしる音しけり。出てみれば異形のもの也。車争の遺恨にや。」とある。「車争い」とは、平安時代に祭礼の場などで、貴族たちが牛車を見物しやすい場所に移動させようとした際に牛車同士が場所を取り合ったことをいう。平安中期の物語『源氏物語』において、六条御息所が祭り見物の牛車の場所取り争いで葵に敗れ、その怨念が妖怪と化したという話がよく知られていることから、この話が朧車のもとになったという説がある。※フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より抜粋~


 僕と同じマンションの住人で、とっても粗雑なおっさんが居る。


 挨拶をしてもガン無視するし、それでいて典型的な中年小太り&小柄な男の癖に、変に態度だけは大きかったりする。それが又僕の神経を逆なでする。


 まあ、それは別に良いとしても、ゴミ出しのルール違反が目に余る。分別をしない、時間を守らない、粗大ゴミの放置は当たり前。全て粗雑そざつだ。


 一番苛々いらいらしいのが迷惑駐車だ。


 駐輪場の自転車にしたって、べらぼうに幅を取る停め方だし、駐車場の車だって枠内を大きくはみ出ている。こちらも揃って粗雑だ。


 そして最も悲劇なのは、僕とこのおっさんの駐車場が隣合わせであると言う現実だ。


 まあ、おっさんはこんな感じの粗雑オブ欠陥人間なので、何時いつかやらかすだろうとは思っていたが、本日見事にって退けてくれた。なんとまあ、僕の車のサイドミラーをぶち折ってくれちゃったのだ。


 昨日まで僕の車は無傷だった訳だし、犯人はあのおっさん以外考えられない。


 クソが。これから外出しようと言う時に何たるこったよ。マジであいつ粗雑が過ぎるだろ。


 これには温厚な僕も、到頭とうとう堪忍袋の緒が切れた。


 そのような折、丁度この憎きおっさんが、悠々ゆうゆうと車で帰って来やがった。


 おっさんは車から降りると、何食わぬ顔で立ち去ろうとしやがったので、僕は思いっ切り大きな声で、「おい! ちょっと待てよ!! おっさん!!!」と 怒鳴りつけた。


 すると、おっさんは急に声を掛けられた物だから、一瞬ビクッと体が反応した後、胸を押さえて苦しみ始めた。


 おっさんは「うう……持病の心疾患が……た、頼む……救急車を呼んでくれ……」と愁訴しゅうそしている。


 僕は「ちっ、しょうがねーなぁ」と、道端みちばたのゴミを足でける様に、おっさんを粗雑に蹴り飛ばすと、素知らぬ顔で車に乗り込み出掛けた。

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