第13話 二口女

 ~二口女……日本の江戸時代の奇談集『絵本百物語』(1841年)にある妖怪の一つで、後頭部にもう一つの口を持つという女性の妖怪。後頭部の口から食べ物を摂取するものとされる。下総国(現・千葉県)のある家に後妻が嫁いだ。夫には先妻との間に娘がいたが、後妻は自分の産んだ娘のみを愛し、先妻の子にろくな食事を与えず、とうとう餓死させてしまった。それから49日後。夫が薪を割っていたところ、振り上げた斧が誤って、後ろにいた妻の後頭部を割ってしまった。やがて傷口が人間の唇のような形になり、頭蓋骨の一部が突き出して歯に、肉の一部が舌のようになった。この傷口はある時刻になるとしきりに痛み出し、食べ物を入れると痛みが引いた。さらに後、傷口から小さな音がした。耳を澄ますと「心得違いから先妻の子を殺してしまった、間違いだった」と声が聞こえたという。※フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より抜粋~


 の本屋では、新書新刊は勿論のこと、新品のゲームやDVD・ブルーレイなどの映像ソフトに、音楽CD何かも販売している。


 長引く出版不況であり、ゲーム業界も映像業界も音楽業界も軒並み衰退の一途。おまけに便利で早いネット通販やダウンロード販売も存在するこの御時世では、小売店にはかなり厳しい時代である。


 この様な苦境の中でも当書店では、他店には無いオリジナル予約特典の充実をセールスポイントに、何とか赤字にならずに黒字をキープし続けている。


 僕は只のアルバイトなのだが、「行く行くはここの正社員にならないか」と言う誘いも受けている。職場の雰囲気は良好だし、何より漫画・アニメや小説に、ゲームや映画もな僕なので、前向きに検討している所である。


 それは別として、常連のお客様の中に、毎月何本もの新作ゲームソフトを予約購入してくれている人が居る。


 このお方は少し独特なお客様で、予約の際は思わず見惚れる様な美女が来店されるのだけれども、ゲームの発売日に商品を受け取りに来られるのは、決まって高齢のお婆様なのだ。


 二人は顔と背格好が何処どことなく似ているので、恐らく続柄つづきがらは孫と祖母の関係なのだろう。


 まあ、人にはそれぞれ事情ってものがある。当店としても大事なお客様なので、これ以上の余計な詮索は止めるとしよう。


 そんなある日に、そのお客様絡みでトラブルがあった。


 例によって商品をお婆様の方が引取りに来られたのだが、それから幾分か時間が経った頃に、僕はようやく特典商品の渡し忘れがあった事に気が付いたのだ。


 直ぐに、「大変申し訳ございませんでした」とお客様に電話連絡をし、「宜しければ自宅にまでお品物をお届けします」と提案をする。


 だがお客様曰く、「その製品は代わり得るものがない激レアな物なので、傷でも付いたら一大事。今から大急ぎで家を出ますから、取りに行くまで、絶対に余計なことはしないで下さい」との事だった。


 受話器越しにもかなり切迫したかすれ声だったので、お孫さんかお婆様のどちらかは分からなかったけれど、よっぽど入手したかった物だと言う熱意は伝わってきた。


 お客様には本当にお手数をおかけしましたので、再来店されましたら誠心誠意を持って謝罪しなければ。


 程なくして、ぜいぜいと息を切らしてご来店されたお客様の面相めんそうは、美女と老婆の半顔メイクでした。

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