第12話 海坊主

 ~海坊主……海に住む妖怪、海の怪異。「海法師(うみほうし)」、「海入道(うみにゅうどう)」と呼ばれるものも含まれる。海に出没し、多くは夜間に現れ、それまでは穏やかだった海面が突然盛り上がり黒い坊主頭の巨人が現れて、船を破壊するとされる。大きさは多くは数メートルから数十メートルで、かなり巨大なものもあるとされるが、比較的小さなものもいると伝えられることもある。弱点は煙草の煙であり、運悪く出会ってしまった際はこれを用意しておけば助かるという。※フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より抜粋~


 無料案内所と言う所は、キャバクラやスナック等の飲み屋さんや、店舗型かデリバリー形式の風俗店等々を紹介する場所です。


 勿論、お客さんを引接いんせつした先のお店では料金が発生しますが、そこまでは額面通がくめんどおり無償なので、一度お試しあれ。例えば地元の人間ではないお客さんが、手っ取り早く優良店に行きたい時等はオススメですよ。


 そして、僕はそんな無料案内所のスタッフをやっている者だったりします。


 さて、今日は定期的に訪れるスペシャルデーです。何せ、本日は海上自衛隊の団体御一行様が、ここ繁華街に一斉に押し寄せる日なのですね。


 長期に渡る航海で、陸に上がるのは久方ぶりの彼らです。男女比で言っても、圧倒的に男性が多い職業でありまして……んまあ、ぶっちゃけた話、性欲もまりまくる訳ですね。


 ですが、自衛官の方々は一人一人ががっついたりする事も無く、寧ろ一般のお客さんよりも遥かに紳士的で礼儀正しかったりします。


 流石は皇国こうこくの守護者達と言った所でしょうか。これからも日本の防衛をお願い致します。


 そんな中、記念すべき一人目の自衛官さんが御出おいでなさいました。おおっと、これは中々に爽やかなイケメン青年ですよ。


 海自の純白の制服は着用するだけで凛々しく見える物なのですが、いやはや、男前だと更に映えて、ばっちり決まるものですね。男の僕でも、思わずうっとりしてしまうくらいです。


 その青年自衛官さんは、とても丁寧にお店の詳細を聞いてきます。どうやら彼は、飲み屋と風俗店の違いがあまり分かっていないらしく、ご要望は「兎にも角にも、素敵な女性とお話したい」でした。


 あっ、こりゃ、童貞ですね。


 そんな彼に、いきなり風俗に放り込むのは酷な仕打ちだと思いましたので、ある一軒のスナックを紹介する事にしました。このお店は僕の一押しのお店です。落ち着いた大人向けの店舗ではありますが、若くて可愛い女の子も多数在籍するお店です。かく言う僕も、仕事終わりにしょっちゅう寄っている常連です。


 の案内所では、実際にお店までお客さんを連れて行くサービスも行っています。そんなで、青年自衛官さんと共に目的のお店へと到着します。そこで僕はお店の女の子達に、「彼に目一杯サービスしてあげてね」とお願いしましたら、「お姉ちゃん方に任せなさい♡」と言う心強い返事を貰えました。


 それから僕は又持ち場へと戻り、別のお客さん対応に追われていました。今日は週末と言う事もあって、目の回る忙しさです。


 そうやって、ばたばたとせわしなく動き回り、小一時間ほど経った頃です。本案内所の前を、先程の青年自衛官さんが、案内したお店の女の子と腕を組んで歩いて行くのが見えました。


 おやおや、彼が連れているのは、あのお店で一番人気の女の子じゃないですか。僕が誘っても一向になびかない子だったのに、彼は一発で店外デートとはやり手ですね。


 すると、青年自衛官さんは僕の方に近寄って来られまして、「素敵なお店を紹介して頂き、心より感謝申し上げます」と言い終えると、すっと敬礼し、二人して向こう側にあるホテル街へと消えて行きました。


 ふう、今日は良い仕事をしたなと、僕はとても晴れ晴れしい気分になりました。それでもって業務終わりまで、もう一踏ん張りだと気合いが入るのです。


 そこへ又、別の年輩自衛官さんが二名ほど来られました。そして、二人の会話はこうでした。


「おい、つい今しがたすれ違った、女性とホテル街へ向かった若い奴の顔を見たか?」

「ああ、確認した。しかし、我が艦であんな奴は一度も見たことがないな。誰だあれは?」

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