第11話 生団子

 ~生団子なまだんご……長野県埴科郡、更級郡(現・長野市)などに見られる特殊な家筋。この家筋では生団子仏なまだんごぼとけという仏像を本尊としているといわれる。この仏像は片足が素足で、片方の草履を手に持っているという奇妙な姿のものであり、この家筋との縁組は忌まれるという。また、この生団子仏に供えるために団子を茹でると、その名の通り一つだけ生のままの物が必ずあるともいわれ、彼岸や月見に団子を作っても、3つは必ず生のままになるともいう。また長野の上水内郡北小川村(現・小川村)には、生団子という名の掛け物が伝わっている。仏像を描いたものだが、その姿は頭に笠を被り、生団子仏と同様に片足が素足、もう片方には破れた草履を履き、身につけた衣も破れており、手には半分折れた杖を持っているというものである。この掛け物を持っている家には、金がたまるといわれている。生団子の家筋は山伏や武士の末裔というが、阿弥陀仏を本尊にする阿弥陀衆である、仏事を扱った人々である、死者を取り扱った人々の子孫であるなどともいわれることから、「なまだんご」とは「南無阿弥陀仏講」が訛ったものであり、葬事に参与する被差別民阿弥陀衆・念仏衆の末裔とする説もある。※フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より抜粋~


 主に観光客を相手に、駅前広場でお団子を売り歩いている屋台がある。


 ある時、僕はその屋台の男性販売員に話し掛けられる。「まずは手に取って見てほしい」と、パックに詰められたお団子を手渡された。見る限り、スーパーやコンビニで売られている、大手食品メーカーのお団子と、取り立てて変わらないと感じるが。


 販売員が言うには、何でも京都の老舗和菓子屋が手掛けるお団子で、地元じゃ大人気の商品なのだと。


 僕はお団子をはじめとして、和菓子ってやつがどうも苦手なのである。それとここの土地は、京都から大分離れた地方都市なのに、「何故に京都?」と思わせる怪しさも相俟あいまって、僕は一切購入する気にはなれなかった。


 だが販売員は笑顔でベラベラと喋り続け、いよいよお団子の値段を述べようかと言う頃に、やっとマシンガントークがゆるまりかけた。


 僕はそのタイミングを見計らって、購入する気は無い旨を伝えると、つい今し方まで乗り乗りの饒舌で喋っていた販売員は、突として人間味を感じさせない表情となった。


 そしてささっと、無言でお団子を回収すると、別のお客に声を掛けに行くのであった。


 何だあの野郎は。失礼な奴だな。一方的に話し掛けてきて、お客が買わないと分かった途端にその態度かよ。せめて、「じゃ、またの機会にお願いします」くらいの一言があっても良いだろうが。まったく腹が立つ。


 それからも、販売員は駅前でお団子を売りさばいていた。


 しかし、前述の様な事があったその日より、その販売員は僕を見掛けると、くる様になったのだ。


 はあ? これって僕が悪いのか? いやいや、僕に落ち度は無いだろう。逆恨みも甚だしいったらありゃしないっての。


 それ以後も、駅前で会うたびに販売員は、僕に対して睨みを利かせてくる。手は出してこないにしても、やはり気分の良い物ではない。てか、何ならこっちが暴力に訴えたいって話ですわ。本当ムカつく。


 ところがどっこい、ある日を境に、その販売員をぱったりと見る事が無くなった。どうやら別の男性販売員と交代した模様である。


 新たな販売員は、当然僕の事は初見なので、お団子を売り付ける為に話し掛けて来た。


 僕は例によって和菓子が苦手である事を告げ、ついでに前の販売員の事を尋ねてみた。


「ああ、あいつですか。実はの接客態度が最悪でしてね。あまたの苦情が寄せられていたのですよ。しかもそれだけじゃなく、うちの社長の奥さんとの不倫がばれた挙げ句に、会社の金を持ち逃げしましてね。本当に下劣で最低な男でしたよ」


 なるほどな。あの販売員にご立腹だったのは、僕だけでは無かった訳ね。しかもガチの罪まで犯していやがる真性の屑じゃねーか。


「うちの社長はヤクザも逃げ出すほどの強面こわもてでしてね。彼奴きゃつは当然ですが、絶対に取っ捕まえて、八つ裂きの刑にして、終いにはにしてやるって息巻いているんですよ、はっはっは」


 はは、いやに生々しいブラックジョーク。でもまあ、今度の販売員さんはまともそうな人だ。今日はお団子を買ってあげても良いかなって気にさせてくれる。商売をするならば、こうした応対を心掛けないとだよな、うんうん。


「あ、そうだお客さん。今日より発売した新商品は和菓子では無いので、こちらならんじゃないかと。如何いかがです? この肉団子」

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