第10話 金霊

 ~金霊かねだま……日本に伝わる金の精霊、または金の気。鳥山石燕による江戸時代の妖怪画集『今昔画図続百鬼』によれば、善行に努める家に金霊が現れ、土蔵が大判小判であふれる様子が描かれている。昭和以降の妖怪関連の文献では、漫画家・水木しげるらにより、金霊が訪れた家は栄え、金霊が去って行くと家も滅び去るものとも解釈されている。また水木は、自身も幼い頃に実際に金霊を目にしたと語っており、それによれば金霊の姿は、轟音とともに空を飛ぶ巨大な茶色い十円硬貨のような姿だったという。※フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より抜粋~


 久しく会っていなかった知人が急に連絡をしてきて、いざ顔を合わせてみたら、ネズミ講かマルチ商法の勧誘だった……なんて経験、あんたらにも一度はあるのではないだろうか。


 こいつは昔からある詐欺の手口で、手を替え品を替え、この現代でも堂々と蔓延っている。良く言う、ネズミ講は違法でマルチ商法は合法論だが、まあどっちも似た様なもんだ。


 はっきり言って大抵の場合、一般人に話が回って来る頃には枝の末端で、儲けなぞ殆ど無い。


 触らぬ神に祟りなしとは言い得て妙で、んまあ、平たく言うと、素人風情がグレーなもんに、物見遊山で手を出すなってこった。


 かく言う俺は、こういったの元締めをやっているからして、絶対に損をしない側に属している。よって安泰、高みの見物状態なのだ。しかも、ヤバくなったらトンズラこけば良いだけの簡単なお仕事です(笑)。


 こうやって、これまでずっと上手くくぐり抜けてきたって訳なのさ。


 とどの詰まり、世間にのさばる大多数のお人好しの御陰で、俺は大儲けをさせてもらっているってな話だ。


 しかしお金ってのは、あればあるだけ良い。高額預金の通帳を眺めているだけで心が和む。


 何てったって、お金があれば何でも出来る。単純な所で、食う飯は常に贅沢三昧だし、はっきり言って買えない物は皆無。毎日豪遊し放題だぜ。


 それこそ俺は、恋や愛や友情や友達でさえ、お金で買えると思っている。その証拠に、俺は毎晩イイ女を抱いているし、気の置けない友人もいっぱい居るからな。


 兎にも角にも金、金、金、お金が一番。


 俺の座右の銘は、地獄の沙汰も金次第だ。だから俺は、本気であの世にもお金を持って行くつもりだぜ。


 さて、今日も今日とて何時いつもの様に、仲間やセフレ共を誘い、高級キャバクラを貸し切ってのパーティーナイトだ。ふふ、これぞ頂点を極めた成功者のお遊びよのう。


 この日の俺は浴びるほど酒をかっくらい、卒倒するまで飲んで飲んで飲みまくった。


 そうしてブラックアウト。


 気が付くと、そこは病室であった。


 俺担当のナースによると、急性アルコール中毒で、この病院に担ぎ込まれたのだそうだ。だもんで、数日間の入院だとよ。


 ま、考えてみると俺ってば、滋養じよう何ぞ考えずに毎度肉中心で好物だけを食らい、アルコール飲料は水代わりで、おまけにヘビースモーカーときたもんだ。


 極め付けに昨晩は、調子こいて違法ドラッグをしこたまちまったからな。


 くくく、こりゃあ、いつ倒れてもおかしくないわな。


 いや、それにしても驚いたのは、薄い味付けの病院食が美味いのなんのって。思えば本当の意味での、ちゃんとした食事ってのはいつぶりだろうか。


 人体ってのは、必要な栄養素を含む食品を妙味みょうみに感じると聞いた事がある。出されたは、ここ最近食べていなかった物ばかりであったので、肉体の神秘をまざまざと思い知らされた。


 ふむ、これからも長くあくどく稼がなきゃならん訳だし、今後はもう少しだけ健康に配慮する事としよう。


 そう決意を新たにした矢先、俺を診た医者が診断結果を報告しに来る。


 末期の癌で、余命一ヶ月だった。

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