第9話 目競
~
私は自他共に認めるスマホ依存症の女だ。
朝から晩までスマホ。外での移動中もずっとスマホ。家に帰ってからも当然スマホ。食事中、トイレ、お風呂でもスマホ。そうやって寝る寸前までスマホ……いいえ、何なら寝ても夢の中でまでスマホを弄っている。
今や一秒だってスマホと離れた生活なんて有り得ない。ずっとスマホと睨めっこしていたい。
そう、毎日同じ事の繰り返しで退屈な日常も、スマホさえあれば生き抜いていけるのだ。
そうして再び朝が来て、こうやってスマホを片手に通勤をする訳だけれど、こんな暮らし向きとか、冗談抜きでスマホが無ければ発狂していると思う。
ここまでスマホに没頭していると、スマホに集中している時は、周囲の雑音もシャットダウン出来る程になっていた。
そうなれば都会の喧騒もスマホによって、殆ど気にならなくなった。
……うん? だけれども、今日は
何だか悲鳴に似た声が多いが、私にはスマホの方が大事。気にせず歩きスマホだ。
その直後、腹部に熱い痛みを感じた。
「女性が通り魔にナイフで刺されたぞ!」
そんな声が遠くで聞こえたのだけれど、気にせず歩を進めなければ会社に遅刻しちゃう。
けれども、数歩も歩けぬ内に、私はその場で崩れ落ちた。
……ああ、刺されたのって私か。ふふ、だけどスマホは手放さず死守したし。セーフ。
ふいに、私はスマホのカメラ越しに、自身のお腹を覗いてみた。
前に戦場カメラマンだか、どっかのジャーナリストだかが言っていたけれど、カメラレンズを通して見える世界は、恐怖心を消し去ってくれるそうだ。
あはは、
おお、これ全部私の鮮血かよ。人間の血ってこんなに出るのね。ちょっと触ってみるか。……うーわ、生暖かいし、何かべちょって手に付きまくっちゃったし。つーか、グロい!
間もなくして、近付いて来た
「おい君! しっかりしろ! 救急車も呼んだからな! 気を確かに持つんだ! 犯人も向こうで取り押さえられたから安心しろ!」
あれれ? スマホにタップする度に画面に血液がついちゃうんですけど?
あああ! ついには真っ赤っかで何も見えなくなっちゃったじゃないの!
ムキーッ! スマホが見られないなんて、私死んでしまいそう!
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