第4話 塗壁

 ~塗壁……日本の九州北部に伝えられる妖怪の一種。夜道で人間の歩行を阻む、姿の見えない壁のような妖怪といわれる。福岡県遠賀郡(旧・筑前国遠賀郡)の海岸地方の伝承によると、夜道を歩いていると、目の前が突如として目に見えない壁となり、前へ進めなくなってしまうというもの。壁の横をすり抜けようとしても、左右にどこまでも壁が続いており、よけて進むこともできない。蹴飛ばしたり、上の方を払ったりしてもどうにもならないが、棒で下の方を払えば壁は消えるという。戦うときは敵に倒れかかって巨体で押し潰すほか、敵を取り押さえて体内に塗り込むなどの攻撃手段を持つ。※フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より抜粋~


 カスタマイズ可の賃貸物件で、室内が前の住人によって混沌とした状態となっている。その様な不可解な条件でお部屋探しをされている若い女性のお客様が、当不動産会社にご来店されたので御座います。


 そのお客様のご希望に見合う賃貸物件ですが、丁度一軒御座いました。弊社最大の魅力は、お取り扱い物件数の多様さで御座いますもので。


 そうして、当該のお部屋に即日ご案内する流れと相成りました。


 このお部屋で過去お住まいになった方々は皆、今では名の有る芸術家となって御座います。


 いつの頃からか、ここに入居すればアーティストとして大成するとの噂が広がり、それからは創作活動家版のトキワ荘などと呼ばれる様になりまして。


 そうやって、数々のクリエーターの卵達がこのお部屋へと移り住み、そのたびに彼らが創作したオブジェが、壁や床や天井に埋め込まれていったので御座います。


 今やその作品一つ一つが希少価値の高い物となりましたので、全てをそのままの形で残しておるので御座います。


 現今げんこんでは、若干無秩序でごちゃごちゃした物件で御座いますもので、あまり万人受けはしないお部屋となって御座います。


「お客様、こちらのお部屋ですが、如何いかがで御座いましょう?」

「とても気に入ったわ。今日にでも入居出来る?」

「いえ、流石にそれは……入居審査を始め、諸々もろもろの手続きも御座いますもので……ですが、出来るだけ迅速に対応させていただきたく存じます」

「早くしてよね。実はストーキング行為をしている好きな人がいて、拉致・監禁していたのだけれど、先日逃げられそうになっちゃって。それで、ついうっかり殺しちゃったの。だからね、二度とそんな事が起きないように、彼を一刻も早く壁に塗り込もうと考えたのよ。木を隠すなら森の中、人を隠すなら壁の中ってね。そうそう、実は彼も一緒なの。最近妙に大人しいから、影が薄くって誰にも気が付かれないの。ほら、このキャリーケースの中に居るわ」

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