第3話 一反木綿

 ~一反木綿……鹿児島県肝属郡高山町(現・肝付町)に伝わる妖怪。伝承地では「いったんもんめ」「いったんもんめん」とも呼ばれる。地元出身の教育者・野村伝四と民俗学者の柳田國男との共著による『大隅肝属郡方言集』にあるもので、約一反(長さ約10.6メートル、幅約30センチメートル)の木綿のようなものが夕暮れ時にヒラヒラと飛んで、人を襲うものとされる。首に巻きついたり顔を覆ったりして窒息死させるともいい、巻かれた反物のような状態でくるくる回りながら素早く飛来し、人を体に巻き込んで空へ飛び去ってしまうともいう。※フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より抜粋~


 ある時ふと空を見上げると、「白くて細長い謎の物体」が上空を飛んでいた。


 明らかに鳥ではないし、飛行機にしては見たことも無い形である。それに速度だって激遅だ。


 僕は写真を撮ろうと、バッグに入れていたスマホを探していたのだが、この一瞬の隙に、その「白くて細長い謎の物体」は消えていた。


 一体何処へ行ったのかと、きょろきょろしていると、さっきとは正反対の方角にそれは居た。


 しかし、相変わらず動きはなのに、あんな短い時間にどうやって移動したのであろうか? テレポーテーションでも実用化されない限り、到底出来ない芸当だ。


 そうやって、「不思議な事があるものだなー」とぼーっとしている間に、そいつは雲の中に消えて行った。


 畜生、写真を取り損ねちゃった。


 あれは何だったのだろうと思ったのも束の間。多くの目撃情報が寄せられたらしく、次の日にはテレビや雑誌で、例の「白くて細長い謎の物体」特集なんかが組まれ、大々的に取り上げられていた。


 UFO説が唱えられるのは想定内であるが、果ては妖怪「一反木綿」説まで浮上する始末で、あっと言う間にプチブームとなった。


 さりとて、話題の移り変わりが早い昨今。立て続けに起こる芸能人・有名人のスキャンダルや、ゴシップニュースなどのおかげで、何時いつしかこの話柄わへいも、人々の記憶から薄れていった。


 そんなで、あれから暫く経ったある日の事、僕は久方振りに、あれなる「白くて細長い謎の物体」に出くわした。


 よし、今回は絶対に宇宙人との遭遇体験してやんぜ……何て馬鹿な事を思いつつ、スマホを取り出してカメラモードに。


 おお、「白くて細長い謎の物体」は空中で微動だにしていないじゃないか。今般こんぱんはばっちし動画にも納めてやろうっと。


 おや? 「白くて細長い謎の物体」が二つに分裂しやがった。こいつは凄いぞ。


 そして、その内の一つが地上にピカピカと光りながら、ゆっくりと落下して行く。


 その後、眩い光を放ったと思えば、僕の意識はそこで途絶えた。


 後になって分かった事だが、くだんの「白くて細長い謎の物体」は、某国の新型戦略爆撃機で、分かれた片割れの方も新型核兵器だったらしい。


 忘れもしないあの日。時節じせつは茹だるような暑さの夏。


 運命の悪戯か、日付は八月六日、午前八時十五分、広島市での惨事だった。

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