オーナーとソフィ3
「結構強く頭を打ったみたいだから何かあったらすぐに救急車を呼ぶけど、ちょっとだけ休んでて」
ワケも分からぬまま、意識も判然としないまま俺は壮年の教員に連れられ教習道路脇に設けられた喫煙スペースで休まされた。
徐ろに煙草を一本取り出して火を着けてみる。
『へぇ、キミ・・・・・・大人しそうな顔して煙草とか吸うんだ? ワイルド〜』
座るベンチの左側から、黄色い声が聴こえくる。
俺の脳みそは非常に困惑していた。頭をしたたかに打ったというのも勿論であったが、何よりおれの世界ではこれまでに経験したb現実とは著しく乖離した現象が起きている。
そもそもである。その起源こそ幼少期目にしたロボットアニメという拙いものであったものの、バイクに対する憧れがあったことは紛れもない事実であり、いずれ自由と孤独の象徴とも言えるオートバイを自在に刈ることのできるナイスミドルにならんと決めていたはずであった。
それがよもやこんな、、、
『ねぇねぇキミ、休んでないで教習再開しよ? もう痛いの治ったんじゃない?』
ゆとりモンスターとまで言われた俺には見ることすらもおこがましいと思えるほどの超絶美少女であったなんて・・・・・・
最高過ぎるじゃんッ!!!
しかし、ここで浮かれてはイケないのだぞ、俺。
これまで幾度となく同級男児たちが、美少女を眼前に類人猿へと退化する有様を目撃してきた。その滑稽さ、惨めさ、なさけなさはどのような表現を以ってしても筆舌には尽くし難く、己だけはああはなるまいと固く心に誓って生きてきたのだ。
今、我が背中にはヒト科の雄の尊厳、その総決算が乗っかっているのである。
負けるな、俺!
そんなこちらの葛藤などはお構いなしにグイグイとその肘でいたずらっぽくこちらの脇を触れ来る。
とても不思議なことに、俺以外の人間には『彼女』たちは視えていない。こうして触れることすら出来ないように思われた。
しかし、これが非常にこしょばゆい。
俺はかつて学部の先輩が口にしていた「ボディタッチの多い女の子には気を付けよ」という言葉を、思い出しながらまっすぐ前だけを見て隣に座った。『彼女』には視線をやらなかった。
何故なら、およそ見るべきところなど決まりきっているからである。
そう、その胸部だ。
素人の俺にだってわかる。CB400SF、通称スーフォアは断じて時速40km制限のある教習用道路で満足できるオートバイではない。
そんな存分に持て余された、欲求不満気味とも言えるボディが、彼女の身体にはこれでもかというくらい反映されているのだ。
軽めに羽織ったパーカーから覗くタイトなインナーの張りがそれを証明していた。
一度目を向けようものならば、彼女の胸が持つ強大な魔力と引力で、この視線は釘付けにしてしまうことだろう。
その力にはヒト科の雄であれば誰しも抗うことが許されず、瞬く間にお猿さんにされてしまうのである。
『澄ました顔でクールだね、、、ねぇ、早く教習いこ?』
「・・・・・・ッ‼‼」
なんともはやである。スーフォアの擬人化である彼女は俺の耳元までその唇を寄せて、吐息すらも掛かってしまいそうな距離で甘く囁いたのであった。
脳髄が一気に桃色に変色するのを感じた。
未だ多分に残る教習のスケジュール、果たして俺の理性は尊厳を保つことが出来るのだろうか?
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