オーナーとソフィ1
2018年、春。マグナ(マグナ50)とロッティ(SR400)を入れ替え、プチツーリングの復路が始まる。
小春日和の穏やな風に乗った花粉が鼻孔をくすぐるようななんともムズムズしてしまう道で、信号は最悪だった。
『また赤ね、ツイてないわ』
獣の威嚇のように嘶いたロッティ。前方にクッキーとレイヴン(レブル250)を捉えたまま「そう言えば」と切り出した。
「あれはちょうど今から2年前、2016年の春のことだったんだ・・・・・・そう、桜の花びらもはらりはらりとその儚い舞いを道行く人々に・・・・・・」
『え、ちょっと待って頂戴。なにそれ?』
「え、いや俺の昔話だけど」
『訊いてないわよ』
「・・・・・・いや言わせてよ。ってか気にならないの? なんで俺に君たちが視えているのか」
『不思議と気になったことはないわ』
それにね、じっとりとした口調でロッティは何かを言いかけたが、やっぱりやめたと俺の話を訊くことにしたのであった。
「君、結構うまいね」
白髪の混じった壮年の男性に褒められる。職場では褒められることなど滅多に無いのでなんというかこしょばゆい。
「なんか乗ってたでしょ?」
「原付きですよ」
大学時代学部の先輩に借りた原動機付自転車に比べれば、今跨っているオートバイはかなり大きいものであった。
CB400SuperFour・・・・・・略してスーフォア。恐らく殆どのオートバイ乗りたちが初めて出会い、そして扱うことになるオートバイだ。
自動車免許の方はAT限定だったが、幸いなことに先輩に借りた原付で、ギアやクラッチ操作のイメージを何と無く掴んでいため、すんなりと教習を初めて貰うことが出来た。
こんなつまらないところ、さっさと卒業して、公道で自分の好きなバイクに目一杯乗ってやるんだ。
しかしながら、そうは問屋が卸さないとばかりに俺の邪魔をする者がいた。
「あ・・・・・・駄目ですね。週末はもう一杯です。空きが出るまで待って下さい」
自動車学校の受付嬢である。
「テメェー!」怒りを込めて一発お見舞いしたいところであったが、俺も紳士であり、女性に手をあげるような真似はしない。
替わりに、「そこをなんとか」という意味を込め、手指を擦り合わせてみせたが、
「いや、だから駄目なものは駄目なんですって」
相変わらずの鉄面皮で追いすがる俺をバッサリと切って捨てるののであった。
今にして思えば、あの時の「こんなところさっさと卒業したい」という焦りが、あの日の事故に一役も二役も駆っていたのかもしれない。
やっぱり許すまじ、受付嬢。
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