クッキーとレイヴン4

「じゃあさ・・・・・・」


今から会社までロッティ(SR400)を迎えに行こうと思っていたことを伝えると、二人はもれなく『着いていく』と言い放った。


「クックック・・・・・・では今度こそレイヴン(レブル250)の本領を発揮してもらおうじゃあないかね!」


「まだ言うんですか、それ?」


『オーナー、なんだか悪役みたいだね』


『・・・・・・』




のんびりと構えるマグナ(マグナ50)の車体をレブルの脇に並べてアイドリングを再開する。クッキーもレイヴンにアイドリングを返してやり、排気量こそ違えどHONDA新旧アメリカンの二重奏が始まった。



マグナ50の小さくも尚その存在感を誇張する迫力のメガホンマフラー、そして飛び出すトーンの高いポップなサウンド・・・・・・


それに加え、電子制御によって常に適切適当なアイドリングを行うレブル250の低く落ち着いた、けれど存在感のある確かなサウンド・・・・・・



目を閉じてふたつの音に耳を傾ければ、春風に乗るオイルの薫りが鼻孔をくすぐり、大気の振動に心が踊るのであった。


これほど幸福なことなどあるのだろうか? いやないに違いない。



「・・・・・・エンジンを・・・・・・停めるんだ」


唐突に、そんな言葉が口を漏れてしまった。当然クッキーは困惑する。困惑はするが言われた通り、レブルのエンジンを停止させるのだった。


こちらもマグナのエンジンを停め、オートバイの擬人化たる二人の美少女が再び目の前に現れ出でた。



つまり困惑者は三名になった。


エンジンが停まったことで小春日和の住宅地には静寂が帰ってきていた。



「いや、あの・・・・・・」



大したことではなかった。あまりに勿体つけてしまったものだから三人とも固唾をのんで次の俺の言葉を待っていた。




「記念に、写真でも、どうかなって」



これまでもロッティを写真に撮ったことは何度もあった。しかし基本ソロでしか乗らず、車体とのツーショットばかり撮られる彼女は次第に『何枚も撮ったでしょう? 何が哀しくてそんなに撮るの?』『私の写真を100枚集めても願いは叶わないわよ?』と離婚寸前の夫婦関係のような反応をするようになり、また俺自身も写真に写った光景よりも自分の目に残った景色や思い出を良しとするきらいがあったため、次第に写真を撮らなくなっていたのであった。




「『『・・・・・・』』」


三人はポカン、と言われたことを理解できないような、期待通りのリアクションを見せてくれた。


『イイッ! イイねオーナー。撮ろうよ! っていうかいっぱい撮ってッ!』


ベタ凪のような静まり返った雰囲気の中、ビッグウェーブを引き連れたマグナのリアクションに救われた。「確かに、折角だし、撮りましょう」『是非お願いします』クッキーもレイヴンもその波に乗っかってくれて、早速撮影を始めることにしたのである・・・・・・




・・・・・・が、



新旧アメリカンの二人が並ぶ様は中々に圧巻で、色々な構図で撮りたくなってしまうのである。特に足回りがファットな二人は、なんというか煽りで撮りたくなってしまう。



上下作業服であるため平気で地面に転がって撮るのであるが、



「良いね、もう一枚・・・・・・・・・・・・あ、そこもっとイタズラっぽい感じ欲しい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・良いね良いねぇ!」




知らず知らずのうちに熱が入ってしまっていた。



『えー、こんなカンジ?』


マグナもマグナでノリがよく、車体のタンクに両肘をついてあざと可愛い表情を作って魅せる。レイヴンもコートのポケットへと手を入れるだけでもかなり様になっていた。




「ふぅー・・・・・・じゃあ一旦5分休憩して、その後上着脱いでもっかい撮ってみようか?」



「あの・・・・・・先輩、ロッティさん迎えに行かなくて良いんすか? あと他人のバイクにセクハラしないでもらって良いすか?」


記念撮影と言いながら、クッキーを置き去りにしてしまう俺なのであった。




※レブル250はアメリカンバイクではなく、ジャンル的にはロードスポーツに分類される(Wikipediaより)

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