クッキーとレイヴン3
2016年、春。そう、ちょうど今から2年前、桜の花びらもはらりはらりとその儚い舞いを道行く人々の・・・・・・
「いや、だから待って下さいって!」
俺の回想は見事に中断されてしまうのであった。
「うるさいなぁ、今すっごくイイところなんだけど・・・・・・」
「今日は私がレイヴン(レブル250)と免許取った後初めて遊びに来てるんですよ⁉ 先輩の昔話なんてそんなしょうもないもん呑気に聴いているバヤイじゃないんですよ!」
「うっ、うぅむ」
相変わらずクッキーは胆力の強い女の子であった。しょうもないは言い過ぎであるが彼女の言葉にも一理あった。むさ苦しい男の昔話なんかよりも、瑞々しい新型オートバイとその擬人化美少女の魅力を語る方が、余程有意義というものであった。
「とにかく、スラロームで転んで、頭をぶつけて私には『彼女たち』の姿が視えるようになった、それで良いじゃないですか?」
一体何処が駄目なんですか? キツい表情でこちらを伺うクッキー。だが、「いや、不味いだろ。病院行けよ」とツッコミを入れたくなってしまった。
さりとて誰かに話したところで、最寄りの精神科を案内されるのが関の山であろうとも思われた。
「わかったよ・・・・・・そこまで言うのなら、見せてもらおうじゃあないか! レブル250・・・・・・レイヴンの真髄をッ‼」
携えたマグナ(マグナ50)のハンドルを離し、パチンと両の掌を合わせ、手揉みをしながらレイヴンへと詰め寄った。アメリカンであるにも関わらず、胸部はロッティ(SR400)程に控えめであった。恐らくせり上がったフレームの影響で小さくなっているタンクを踏襲しているのだろうと思われた。それでいて手足が細長く、こちらからは少し見下すような視線の位置であるにも関わらず、身長が高く見えてしまう。
『ちょっとオーナー、レイヴンに変なコトしたらロッティに言いつけるからね!』
『先輩、今の時代セクハラは極刑ですよ‼?』
「おいおい、『まだ』何もしてないだろ!」
『あ、今『まだ』って言った』
「『まだ』って言いましたね」
酷い言われようである。まだ何もしていないのにである。
改めて、レイブン、もといレブル250の車体に向き直った。
横から見たファットな印象とは裏腹に、縦から見たシルエットは細い。「またがってみて良い?」と訊けば「ヘンなことさえしなければ」と返ってくるので、レイヴン自身の顔色も伺いつつ、そのシートへ腰を預けてみた。
(狭い・・・・・・?)
思っていたよりもポジションはタイトで、詰まった印象を受けた。これはまもなく180cmに到達するであろう俺に取っては窮屈とも感じれるものであった。
(不思議なもんだな・・・・・・)
しかし女性にとってはどうだろうか? バイクらしいワイルドで力強い外観でありながら、それでいて扱いやすくなっているのではないだろうか?
ゆったりとした流れの河のようなデザイン、跨がればタイト、加えて水冷単気筒にマットなイメージのクールな外装・・・・・・
『どうでしょう? 私の感想は?』
レイヴンはそのミステリアスな、心の内側を覗くような、奥行きのある瞳でこちらを捉えくる。
『別に本音を言っても良いんですよ?』その瞳はそう語っていた。
『デザインバイク』そう言ってしまえばもしかしたら聴こえは悪くなってしまうかもしれない。しかし、よくよく考えてみれば、この日本の法定速度は概ね60km/時であり、このエンジンであっても十二分にその要件は満たしている。本来不満など起こりうる筈もないのだ。
加えて空冷では排ガス規制を通過するのが難しくなっている今、どのポイントに重きを置くべきなのか、メーカーも試行錯誤を繰り返していることだろう。
SR400だってそうだ。400ccという排気量でありながら加速性能や、走行性能はほどほどに、単気筒独特の鼓動感や贅沢なクロームメッキの配置、クラシカルな印象に極振りしたような一台である。
往年のライダーたちの中には「キャブ車じゃなければバイクにあらず」「最近のバイクはつまらない」そんな不満を漏らすものもいるのだろうが、そんな言葉には耳を貸す必要なんて無いくらいに、
「凄く良いバイクだと思うよ。クッキーはキミをパートナーに選んで正解だと思う」
そんな感想以外、持ち合わせるものは無いのであった。
※レブル250はアメリカンバイクではなく、ジャンル的にはロードスポーツに分類される(Wikipediaより)
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