マグナと初詣3

財布から100円を2枚取り出して大きな賽銭箱へと投げ入れる。俺の生活ではこれが精一杯かに思われた。


二礼二拍手、そして一礼、マグナ(マグナ50)もこちらに習ってぎこちなく礼を奉じた。


目を閉じて夢想する。


人は太古の昔より『祈る』という行為とともにあった。雨、豊作、健康、人生の成功・・・・・・そんな自分だけではどうにもならない大事を、叶えてくれるのかも分からない神へと祈り続けてきたのだ。南都も非科学的であり、まだ文明が発達していなかった戦国時代であればそれも頷けた。


しかし、インジェクターがキャブレターに取って代わり、そのカラクリの多くが電子コンピュータ制御となり、今や化石燃料さえその存在意義が危ぶまれる現代社会において、『神』という存在は否定されつつある。


そのような世界で、一体何故ここまで多くの人間が、夜を徹して参道を登り、祈るのだろうか?


1年というルーティンの中で自分自身に決意表明をしているのだろうか? 或いは娯楽的なイベントの一環として消化しているのだろうか? 中には本当に神の存在を信じているのかもしれない。


『・・・・・・』


隣には何かを一心に祈る少女がいる。





彼女は今、何を祈っているのだろうか?



「・・・・・・・・・・・・よし・・・・・・そろそろ行こっか?」



『うん!』



下山する右手の列に加わり、石段を下っていく。いよいよご褒美を買って貰えるとマグナはウキウキではち切れそうな笑顔を浮かべている。


「マグナはさ、神様に何をお願いしたんだ?」



『ずっとオーナーとロッティと一緒に居たいなって!』


あと一杯走りたい、満面の笑みを咲かせるのである。


だろうな、そう思うのと同時に、ズキリと胸に痛みが奔った。彼女の幸福を願い、俺はマグナをクッキーへ譲ってしまうべきなのかを考えている。しかしそれは、俺が勝手に「その方が幸せだから」とどこの誰が作ったのかも分からない価値観で彼女の願望を測っているからなのではないだろうか?


それは、押しつけではないのだろうか? 彼女の幸福を俺が勝手に決めて良いのだろうか?



「・・・・・・そっか」



『で、オーナーは何をおねがいしたの?』





「・・・・・・・・・・・・そうだな、宝くじに当たって、オートバイハーレムでも建造しようかな」


誤魔化しも含まれていたが、3割くらいは本気であった。せせらぎ男児たるもの、このくらい大きな野望を持っていなければならないのである。


それでもし彼女たちが幸せだと感じるなら、それで良いんじゃないだろうか? 俺は楽観的に考えることにした。


『うわ、サイテー! ロッティに言いつけてやる』



「おい、許せよ、リンゴ飴、2つ買ってやるから」



下り参道にてマグナは両方の頬にリンゴ飴を頬張り、リスのような顔面になっていた。そして逐一それを見せつけてくるのである。


『ほへしゅほいほいひー!』


「おいバカやめろっ」


笑いを堪えるので精一杯だった。








そして俺たちは家路につく。






そこに待っていたのは無言で右手を差し出すロッティであった。


「え? ・・・・・・何その手?」



『お土産は?』




「無いに決まってんじゃん!」

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