マグナと初詣2
せせらぎ町から仙台方面に抜ける道は2つある。1つはせせらぎ街道と呼ばれるバイパス、大きなトンネルを2つ抜ける自動車専用道路であり、自転車や徒歩、125cc以下のオートバイは通行することが出来ない。
もう1つは八幡峠であり、峠と言っても起伏は殆どなく、大きなカーブが一級河川せせらぎ川に沿って続く、旧街道である。
この旧街道八幡峠を越えると山形方面から見た仙台の玄関『八幡町』へと到達出来る。名称から簡単に察することが出来るが、この周辺は神社仏閣が多く、国宝にも指定されている『大崎八幡宮』もこの町に存在している。
現在俺たちはこの大崎八幡宮を目指して旧街道をひた走っていたのだが、
『ひゅー、さむいねー』
12月・・・・・・いや1月なので当たり前といえば当たり前なのだが、新年真夜中の向かい風はアウターを簡単に貫通して肌から体温を奪って逃げていく。
マグナのエンジンもなかなか温まらず、停車時など気を抜くとエンジンストールしてしまいそうになった。
「眠い?」
『眠くない!』
ストールしそうになるのを感じるとスロットルを空けてやりアイドリングは持ち直すのだが、しばらくするとまた元気を失ってしまう。冬場などはアイドルの調整をもう少し上げて上げた方が良いのかもしれない。
そんなことを繰り返すうちに、次第に見慣れない光景が現れ来るのを感じた。町の表通りを明るく照らす協賛の記された提燈の数々・・・・・・
「ほら、マグナ、着いたぞ」
家を出て20分ほどで大崎八幡宮へと到達した。朱に塗られた巨大な鳥居がそこかしこに飾られた提燈の暖かい光を受け、その偉大さ、荘厳さを醸し出していた。八幡宮だけではない。午前零時を回っているにも関わらず、行き交う車や参道へと向かう人々の群れ、町全体を覆う朱い灯り、いつもの八幡町とは違う、別の顔を覗かせていたのだ。
非日常がそこにはあり、一瞬何故かは分からないものの、その光景に俺は恐怖を覚えてしまった。
自分が知らない世界に脚を踏み入れてしまったような感触があった。
境内の入り口でマグナのエンジンを切ると、少女のマグナが俺の視界に出現するのだが、不思議なことに彼女の姿が見えていないはずの参拝客にはぶつからない足取りで淀みなく参道を登っていき、石段の途中で誘うようにこちらを振り返った。
『オーナー、ほら、行こ?』
流石原付き、すり抜けが上手い。そんなくだらないことを考えながら人混みをかき分け、跳ね回る彼女を追いかけ、追いついて、ついにその腕を捕まえた。
「こんな人混みで逸れるんじゃありません」
何より、周りの参拝客に変な目で見られたくないのであった。
『えへへっ、捕まっちゃった・・・・・・ねぇねぇ? リンゴ飴食べてもいい?』
石段を駆け上がった先にはさらに参道が続いているのだが、両脇には出店が所狭しと並んでおり、香ばしい炭火焼きの匂い、態とらしいくらいわかりやすいソースの香りなどが辺りに立ち込めていた。
肌に当たる冷たい冬の空気、朱く化粧をした町、屋台の出す匂い、新年に何か特別を期待する大勢の人の声なき声・・・・・・
触覚・視覚・嗅覚・聴覚、それらの要素が幼少期より脳裏に刻み込まれていた『新年』の思い出を鮮明に想起させた。
「ねぇ、クジやりたい、クジやりたいッ!」
聞き分けのない子供に、いつだって大人はこう言うのだ。
「・・・・・・参拝が終わってからな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます