クッキーとマグナ2

「へぇ、先輩、結構立派な家に住んでるんですねぇ」


「どんな家に住んでると思ったんだ?」


週末、早速男は後輩女子社員ことクッキーを自宅に招待していた。男女の色恋には疎いものの、オートバイの話となると行動が早いのであった。


等間隔に並ぶ築26年の平屋一戸建て。一人暮らしには少々手広く、持て余してしまうのものなのだが、男は2台あるオートバイを家族のように愛し、生活をともにしていた。それがSR400の『ロッティ』とマグナ50の『マグナ』であり、男以外に見ることが叶わない、それはそれは麗しい少女、或いは女性の姿で彼を魅了していたのであった。


クッキーを軒先で待たせると、男は庭先のトタン屋根に上空を守られたスペースからマグナ50の車体を取り出してきた。そしてそれに呼応するようにシルバーにHONDAのロゴが入ったアウター、腹部の肌色が眩しい(季節が季節だけに少々痛々しい)タンクトップ、大胆に太ももを魅せるホットパンツ姿の金髪少女『マグナ』が飛び出してきたのである。


マグナはクッキーの周りをぐるぐると周り、値踏みするような目で見やる。


『ねぇ、ダレこの女の人? ひょっとしてオーナーの彼女さん?』


「フッ、どうかな?」


興味津々のマグナに対して、落ち着いた返答を返すのだが、


『っんなわけないよねー』


「・・・・・・」


わかってるなら訊くなよ。カラカラと笑うマグナに少々傷ついた男は内心毒ついてみた。先にも述べたように、『オートバイの美しき化身』たる彼女たちの姿はこの男にしか見えておらず、彼女たちの声も、この男にしか聴こえていないのである。


「先輩、なんか言いました?」


「いんや、なんでもない・・・・・・さぁ、コイツがマグナ50だ!」


男はスタンドをかけ、堂々とした佇まいの車体を自立させると、黒のシングルシートをペシペシと叩いてみせた。


『やんっ、オーナーのえっち』


(うるさいなっ、ちょっとで良いから大人しくしてなさいよ!)




「へぇ、これ、本当に原付きなんですか?」


クッキーは男とマグナのちちくり合う姿を知らずか、その意識はマグナ50の車体に釘付けとなっていた。


随所に施されたクロームメッキ、迫力のメガホンマフラー、原動機付きの規格を逸脱した車体のサイズとデザイン・・・・・・


始めて目にする者であれば誰もが抱く感想であろう。



「・・・・・・スゴい格好良いですね。これ本当に私が乗っても良いんですか?」


想像していた以上にバイクらしいバイクが登場し、クッキーは少し気圧されてしまっていた。そんな彼女に、男はドヤり顔を見せるのである。



「もちろんだよ! コイツこう見えて原付きなんだぜ?」



『・・・・・・ツーン、なんでオーナーが偉そうなのさ』


自分のことを自慢するオーナーに何故かへそを曲げるマグナ。それが、自分の意志が介在できないことへの不満なのか、自分のオーナーが知らない女を相手に得意気な顔を見せるのが嫌なのか、それはオーナーにも、無論マグナにも判然としないのであった。

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