ロッティとマグナと炬燵3
『というかね』
言ってしまっても良いかしら? ジロリと挑戦的にこちらを仰ぎ見たロッティ(SR400)。どうもヤキモチを焼かされたのが気に入らなかったようである。
『バイクに乗ったってね、モテないのよ』
「・・・・・・なん・・・・・・だとッ!⁉」
稲妻のような衝撃が、全身を駆け巡り、寒風に打たれたかのように身の毛がよだつ。
好みは各々分かれるとも、どれも洗練されたデザインとコンセプト、人馬一体となり大地を蹴る力強さと爽快感、そして向かい風をその身で切り裂く疾走感、時に社会からも嫌悪される他に迎合しない自由と孤独の象徴・・・・・・
それがオートバイだ。
「こんなに格好良いものが、モテない訳が無いだろう」くらいには考えていた。
『貴方、それは私達が格好良いのであって、貴方が格好良い訳では無いでしょう・・・・・・実際、モテなかったでしょ? ・・・・・・モテたの?』
「・・・・・・いや、これっぽっちもモテない」
実際モテなかった。増えたのは彼女や愛人では無く、オートバイであり、培われたのはナンパや逢い引きのテクニックではなく、オートバイメンテナンスのノウハウだった。もっと言えば、バイクにのめり込むあまり、同性から声をかけられる機会すらもめっきり減っていた。
一瞬、ホモ・サピエンスの遺伝子の先端を駆ける者として些か自覚に欠けるのではないかという考えが脳裏を過ぎったが、そんな哲学的な命題からはフルスロットルで逃げることにした。
『いいかしら? ひとつ大切なことを教えて上げるわ・・・・・・』
ロッティはやにわにがばりと立ち上がり、いつもの格言を言い放つかに思われたが、再びしゃがみ込み炬燵へと舞い戻った。やはり炬燵の恩恵、もとい温恵から出るのは憚られるものと思われた。
『バイクに乗る人がモテるんじゃなくて、モテる人がたまたまバイクに乗っただけよ』
「わーッ! やめてっ! それ以上言わないで」
ロッティの口を付いて出てくるこ言葉がいちいち胸に刺さった。今俺はすべての冴えない男性ライダーへと向けられる責め苦をその一身に受けているような感覚に陥ってしまっていた。
『それを、メーカーも、広告会社も格好良い男がさも漢を磨き上げるツールとしてオートバイを告知するものだから、一体どれだけのしょうもない男たちが犠牲になったことか・・・・・・って貴方、大丈夫? 顔色悪いわよ』
「モウヤメテクダサイモウヤメテクダサイモウヤメテクダサイモウヤメテクダサイ・・・・・・」
俺は手を擦り合わせて災厄が通り過ぎるのを必死に祈っていた。
『何を今更・・・・・・きっとその後輩の女の子も自慢気にバイクの話を垂れ流す貴方のことを冷めた目で貴方を見ていたに違いないわ』
「え・・・・・・なにそのホラー」
常日頃より漠然と「仕事したくない」と思っていた俺であったがその時初めて明確に明日会社に行くのが怖くなったのであった。
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