ロッティとマグナと炬燵2

夕食を終え、食器類を片付けて居間に戻るとそこにはまったりとしたまどろみの時間が滞留していた。マグナ(マグナ50)の姿が無く、仙台名物小芥子と化したロッティ(SR400)に尋ねてみると、『炬燵に食べられたわ、もう助からない』素っ気なくそう答えた。同じオートバイでありながら薄情にも程がある。


世界のHONDAと日本のYAMAHA、2大オートバイメーカーの確執がそこにあった。


しかし、だからと言ってマグナを助ける術は最早皆無に感じられ、自らもまた炬燵へと回帰した。『むぎゅっ!』柔らかいものを足蹴にした気がしたが、きっと気のせいだろう。


「そいやさ、今日ね、女の子に話しかけられた」


少々自慢げに言ってみせる。人は大なり小なり射幸心や虚栄心というものを持ち合わせており、時折自分の価値を高める名目で自慢やら自虐を行う。


全く以てくだらない話であるが、俺だって人の子であり、たとえ自身の所有するオートバイたちであっても、ヤキモチのひとつでも焼いて欲しいと思うのが人情である。


むしろ、そのやりとりからしか接種できない栄養素があるかに思われた。しかし、


『ふぅん』野暮ったく半開きになった瞳でロッティはこちらを見やったが、興味無さそうに聞き流すのであった。


そうなればこちらとしては面白くない。会話の発展を考え、後輩女子の放った言葉『バイク乗りはモテたいが為にバイクに跨るのか?』という話題にフォーカスしてみることにした。


『・・・・・・貴方、モテたいだなんて思っていないでしょ』


より一層ジットリとした目線でバッサリと切り捨てられてしまった。ここまで明け透けに否定されてしまうとなんだか悔しいのでとりあえず反論を試みる。


「わかんないじゃん、ひょっとしたら心の奥底の方にそういう欲求が無いとも言い切れないだろ」


『・・・・・・私達が居るというのに、他の女の子に魅力なんて感じるの?』


ロッティは炬燵より身を乗り出して、ぐっと距離を詰めてくる。態々その野暮ったい目をぱっちり見開き、真っ直ぐにこちらを見据えた。


『どうなの?』


「・・・・・・」


彼女との距離が更に縮まる。


ともにくだらない日常を送る中で感覚が麻痺してしまっていたが、彼女らはどうしようもないくらい美しく、気高いオートバイの化身なのだ。


クロームメッキの煌めきに勝るとも劣らぬ白銀の髪が、夜闇に存在を誇示するウィンカーの瞬きよりも鮮烈な橙の瞳が迫り来る。



さもありなん。ぐぅの根も出ない程の正論であった。


『どうやら自分の立ち位置が再確認出来たみたいね』


「悔しいけど、何も言い返せない」


白旗を揚げるとロッティは得意気にフフンと鼻を鳴らすのである。


『解れば良いのよ・・・・・・解ったのなら、今後は見栄で他の女の話なんてしないことね』


「はーい」





ん、その話の流れからすると、


「・・・・・・ねぇ、ロッティ」


『何かしら』


「ひょっとしてだけど、ヤキモチ焼いてくれた?」


『・・・・・・何を、お馬鹿なことを。蹴られたいのかしら?』


炬燵より今一度『むぎゅうっ』と悲鳴が聴こえた。どうやら俺の代わりにマグナが蹴られたようだ。


彼女の顔が赤くなったのを観て、してやったりと内申歓喜するが、これ以上追求すると本当に蹴られかねないのでやめておくことにしたのであった。

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