ロッティとマグナと炬燵1

2017年、冬。次第に株価が暴落したかのように、ガクリと気温が下がり、いよいよ年の瀬が間近に迫っていた。


幼少期、まだ田舎の実家にいた頃の話である(※仙台は都会)。冬になると大きな居間には炬燵が配備され、一家団欒を暖かく彩っていた。


無邪気な少年であった俺は炬燵の持つ恐ろしいほどの魔力と包容力を知らず、笑顔でその身を投げ出していた。


朝までそのまま過ごしてしまい、風邪っぴきとなること幾百、当時の記憶に思いを馳せてみれば、身体の芯の方で、ぽうっと柔らかい明かりが灯り、あの時感じ得た暖かみが甦ってくる・・・・・・



・・・・・・ことなどは全くなく、やはり師走の寒さとは手厳しいものである。



「うー、寒い、寒い」


玄関を潜って尚寒い。かじかむ手を必死に擦り合わせれば、次第に熱を持ち始める。廊下を抜け居間の戸を開け放てば、すでに中には明かりが点っており、温かい膜が俺を迎え入れた。


「お前ら・・・・・・」


そこでは、すでにロッティ(SR400)とマグナ(マグナ50)が、下半身を炬燵に喰われた状態で呑気にぬくぬくとしていた。


先週実家より暇を出された炬燵が我が家に届いて以来、仕事を終えて帰宅するとこの有様である。


ここは家長としてガツンと説教でもせねばなるまい。そう考えてとりあえず残った二面のうち一面に潜り込んだ。



「あぁ~、あったまるね〜」


冷え切った身体にじんわりと暖気が染み込んでくる。全てのことがどうでも良くなってしまいかけた。


『そう? それなら先んじて炬燵を温めていた私達も鼻が高いわ。感謝しても良いのよ?』


手すらも炬燵に預け、だらしなく上半身だけをだしたロッティの澄まし顔は仙台名物『小芥子』のようであった。


そもそも去年などは、オートバイ本体に寄り添うように会社の倉庫で冬を過ごした彼女である。それがどうしたことか、現代社会文明の利器に触れ、かくの如く自堕落極まる体たらくと相成ってしまっていた。


ムッとした表情で彼女を見やると、今度は炬燵に預けた俺の足を誰かが(恐らくマグナであろう)がイタズラをし始めた。


『えへへっ、あっためてあげる!』


その小さくも温まりきった両足で俺の左足を捕まえようとするのである。恥ずかしいやらこしょばゆいやらで何とか逃れようとするのだが、器用に捕らえてくる。


「・・・・・・こら、やめなさい、はしたないなぁ」


しかしながら、こういうのもたまには悪くないものだ。乾燥する季節ではあるが、潤いもあった。


俺は唐突に仕事中後輩女子に話しかけられたことを思い出した。


「先輩はなんでバイク乗ってるんですか?」


「モテたい、とか?」


正直モテたらモテたで面白いかなぁ、とは思ったもの、結局そんなことにはならなかったし、『彼女たち』への愛情がおざなりになってしまうのではないかと考えると現状が一番良い状態なのかもしれない。


『やめなさいマグナ、この人の足、使用済み核燃料と同じくらい危険よ?』


「こら、適当なこと言うな」


酷い言われようである。マグナはそのまま寝転がり、ゲラゲラと笑うのであった。

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