オーナーとクララ9
『ねぇお土産は?』
「・・・・・・えっと、あの・・・・・・わたくしはいつまで正座していれば良いのでしょうか?」
自宅居間にて、正座させられる俺。またしても不甲斐なき父のことを思い出してしまう。
『お馬鹿ね貴方・・・・・・一生に決まっているじゃない』
眼の前に、さながら仁王のように立ち塞がるロッティ(SR400)。ジリジリと熱気を放つ、マフラー型の金棒が俺には見えた。
殴られようものなら殴打による大ダメージと火傷の追加効果が付与されているに違いない。
『ねぇお土産は?』
そしてマグナ(マグナ50)、彼女ならば夫婦喧嘩も上手く食い散らかしてくれるのではないかと期待したのだが、今現在彼女の興味はお土産にしかないようだった。
『聞きなさい、マグナ・・・・・・オーナーの、いえこの男の風上にも置けない、見掛けたオートバイを手当たり次第に口説きまわる変態ド畜生オーナー、また増車するんですって。もしそうなったら貴方、明日にでも身売りに出されてしまうかもしれないわよ?』
「し、しないって!」
最悪、次の持ち主が見つかるまでウチに居てもらおうと考えていただけで、あわよくばクララ(GB250)を手籠にしてしまおうなどと思ったことは、
いや無いわけではないが。
「命の恩人でもあるんだ。出来れば見捨てたくないんだよー」
命の恩人だなんて、ちょっと大げさかもしれなかったが、交わした約束を違えるのも男らしくない。先にロッティたちに相談できなかったのは確かに申し訳ない気もしたが、
『その恩人というのも胡散臭い話ね』
「すごくいい娘なんだって。ロッティも会ってもらえばきっと仲良くなれるよ」
気性は穏やかお淑やか、人の脛を蹴ったりしないし、絶対に折檻されることもないかと思われる。
『・・・・・・『隣の芝生は青い』ってことわざ、知ってるかしら? 自分の所有するオートバイの前で、よくもまぁ他の家のバイクの話なんて出来たものね・・・・・・恥を知りなさい!』
「うぅ・・・・・・助けて、助けてマグナ」
『ねぇお土産は?』
「・・・・・・ゴメン」
『ハジをしれぇ!』
仮にクララが我が家に滞在することになったとしても、こんな格好悪い姿は見せたくないと切に願うのであった。
そして、俺が遭難し、クララによって助けられた次の週末、何と俺はロッティと共にあの山を再び訪れていたのであった。
が、しかしである。
『・・・・・・ふん・・・・・・何れにしてもウチのヘタレオーナーが世話になったのだもの・・・・・・お礼参りに行かなくちゃね』
残念なことに穏やかではなかった。廃駅に置いた車体からマフラー(殴打用)を取り外そうとしていたので、止めさせて山道へと向かった。
下山の際は夜だったこともあり、異様に長い時間山中に居たような気がしたのだが、今回はあっさりと橋のあった地点まで辿り着くとが出来た。
「・・・・・・あれ? ここの橋、確かあの時は崩れてなかったような・・・・・・」
なんとクララに見送って貰った筈のコンクリート製の橋は中央が崩れていて、とてもではないが渡れるような代物ではなかったのだ。
『本当にこの先に居るの? 人間ですら住んでいるのか怪しいわよ?』
「いや、確かこっちの道で合っていたと思うんだけど・・・・・・」
また道を間違えてしまったのかと思われたが、一応向こう側を確認してみようということになった。幸い、橋下はそこまで高低差がなく、土手を上り下りすれば渡れるように思われた。
しかし、SR400のか細い足回りはローファという形でロッティに落とし込まれている。とても登山に適した靴とは言えない。手を貸して土手を渡らせるのだが、汚れることを極端に嫌うロッティはついつい不安定な姿勢で歩いてしまう。
『ひゃうっ!』
「おっと・・・・・・気を付けて」
可愛らしくも珍妙な声を挙げ、バランスを崩しかけた彼女の腕を引き、肩を抱いて引き上げれば下山の際のクララとの逢引が思い出された。
『・・・・・・ず、随分と手慣れた手付きじゃない・・・・・・前にもこんなことがあったのかしら?』
「いや、まさか」
一瞬、ロッティの瞳が鈍い光を湛えたのだが、ついに目的の小屋・・・・・・ではなく倒壊寸前の趣ある家屋が見えてきたため上手く注意を逸らすことが出来た。
「あ、あー! アレだよロッティ!」
態とらしく指を差し大きな声を出してみる。均された道の先にはあの時の家屋が・・・・・・・・・・・・
眼前の光景に、俺たちはしばし言葉を失った。
『ね、ねぇ・・・・・・貴方、こんなところで本当にGB250や家主のお爺さんに出逢ったの?』
なんともはや、ついこの間立ち寄った筈の家屋。確かにオンボロで倒壊の危機に瀕してはいた。しかし、きっとあのお爺さんが丁寧に補修し、機能を維持しているように思われていた。
しかし今、目の前にあるのは軒は傾き、屋根も崩れ落ちて、その隙間より木や草が伸び放題の廃屋だったのだ。
とても昨日今日で壊れたとは言い難い、人の手を離れ最低でも数年以上は経過しているように思われる朽ち果てた家合であった。
『・・・・・・ね、ねぇ。これ、どういうこと?』
彼女は困惑した表情を俺に向けるのだが、此方が訊きたいくらいであった。
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