ロッティとORGAN2
せせらぎ町から緩やかな山道を駆け抜け、目的地である『ORGUN』へと向かう。
「いやー、やっぱり出てきて正解だったね!」
『存分に私に感謝することね』
秋の日にしては気温が高かったものの、スロットルを開放すれば風が心地よく、流れ過ぎる景色も存分に楽しむことが出来た、
30分も掛からないツーリング。果たしてツーリングと呼んで良いものか気になるところではあるが、俺自身が楽しめたのでこれで良いのだろう。
「到着〜」
喫茶『ORGAN』は道路側に背を向ける形では建っていたため一度見逃してしまったのだが、『アグリエの森』駐車場でUターンさせて貰い、何とか辿り着くことが出来た。
邪魔にならないスペースに車体を停め、俺とロッティ(SR400)は砂利道を通り、店の正面入り口へと向かう。出迎えてくれたのは、何処へ向かうのか分からない英字の看板や、少し錆びついた黒塗りのポスト。
俺は時間を逸脱した不思議な空間へと誘われた気がした。
「いらっしゃいませ」
店員と思しき綺麗な短髪の女性が顔を覗かせる。どうやら1人で店を切り盛りされているようであった。
「珈琲・・・・・・いや、カフェオレって頂けますか?」
「かしこまりました、少々お待ちくださいね」
優しく笑うと調理のため奥へと下がる。胸に付けた名札から、サトウさんと言う名前が伺えた。ロッティよりももっと短く切り揃えられた髪からは、凛々しさに併せて意志の強さも伺えた気がした。
とにかく美しい女性だった。
『ふ〜ん』
得たりと言いたげなトーンでロッティが鈍い瞳を向けてくる。「何よ?」『いえ、別に』
注文が来るまでの間、店の軒先あるベンチで休ませて貰ったのだが、ロッティはベンチには座らず、プイとこちらに背を向けて景色を眺めていた。一言だけ『良い雰囲気ね』、そう呟いたのが聞こえた。
店の風情のお陰か、その空間はノスタルジックなもので、その庭先に佇むロッティはまるで不思議の国に迷い込んだ少女アリスのようだった。 黒を基調としたカラーの服だったので装いはゴシックかもしれないが。
「お待たせしました。カフェオレです」
サトウさんにカフェオレを手渡される。鼻孔をくすぐる独特の甘い香り、一口含んでみてすぐに解る舌で解ける柔らかい口当たり、
「・・・・・・甘くて美味しい・・・・・・これって砂糖は?」
「入ってないんですよ。珈琲はライ麦や大麦を焙煎して、ミルクはアーモンドから作られているんです」
先にも説明したが、ここ『ORGAN』はヴィーガンレストランであり、動物性タンパク質や砂糖、米や小麦から果ては蜂蜜までもを一切使用しないメニューを提供するお店なのだ。
「へぇ・・・・・・」
サトウさんに砂糖の不使用を問う。思い至れば僅かに広角が上がってしまったが、頂いたカフェオレはノンシュガーであるにも関わらず、円やかで上品な甘味を感じた。
「ロッティも飲むかい?」
これはきっと女の子におススメのメニューに違いない。直感的にそう思い、是非と勧めてみたのだが、
『馬鹿ね、私はレギュラーかハイオクしか飲まないわよ』
「飲み会では生ビールしか頼まない、的な?」
『何よ、人を呑んだくれみたいに・・・・・・』
違いない。 カフェオレを飲み終えて、伸びをひとつかました。
「・・・・・・いやぁ、にしても趣味が良くてのんびりしてるし良い店だなぁ。毎朝ここの珈琲を飲んでから出社したいくらいだよ、ね、ロッティ?」
店員のサトウさんも美人であり、珈琲を理由にお近づきになれるかもしれない。
『なーに鼻の下伸ばして・・・・・・だらしがない。ほらっ、行くわよ! 二口街道から山形まで修行よ・・・・・・覚悟することね』
「え、なんで!?」
※二口街道
仙台秋保から山形山寺まで続く峠道、約20km。夏期の僅かな期間しか開通していない。山頂付近まで行くと蛇行が激しくなり、また落石や、日が届かず暗い道、腐った落葉などでスリップの危険もある。山頂の景色は絶景のスポット。
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