ロッティと旧友4

そして訪れるツーリング当日。午前10時、雨天を願っていたが、日頃の行いが悪いのか、天気は快晴であった。ガッカリしても居られない。俺たちはかつて通っていた中学校の校門に待ち合わせをしていた。


「よっしゃ! 同窓会ツーリング! 楽しみだなぁ、オイッ!」


Ninja250で突風のように出現したサイタ。出会い頭にドカンと肩を叩かれる。ロッティ(SR400)に跨ったまま転んでしまいそうになった。


「それよりも今日は何処に行くんだ?」


今回のツーリングのホストは俺ではないため、行き先は今の今まで聞かずにいた。


「蔵王に行くぜ!」


宮城県内にある白石蔵王、主に温泉街や観光名所で有名な『お釜』、きつね村やその他レジャー施設やグルメ店舗が軒を連ねる街である。


せせらぎ町から蔵王に抜けるルートは主に3つ、東京まで続く国道4号線を南下し、途中で西に折れる最も平坦なルート。286号線から47号線を通り、すずらん峠を抜けるルート。そして最後は、


「青根から行くぞ!」


286号線を西に、秘境・青根温泉の山々を大きく迂回するように抜ける457号線のルートだった。


「あんまり山奥行くなし。平坦な道ゆっくり行こうぜ?」


初心者ライダーのことも少しは考えてもらいたいものである。


「いや、もう何度も普通の道では行ったし、つまんねーよ」


俺とサイタの意見は真っ向からぶつかった。となればユウキがどちらの意見を採るかである。


「う〜ん、こっから蔵王までだと早ければ1時間くらいで付いちゃうからなぁ」


つまり、折角のツーリング、少しでも遠回りしたい、ということだ。流石に多数決に逆らう気にはなれず、「ペースは考えてくれよ?」そう釘だけ差して出発することになった。



「おいおいマジかよッ!」


一体全体何が楽しくてそんな険しい道を通るのか。『457号・青根温泉ルート』は想像以上であった。峠道というよりも林道という表現の方が近かったかもしれない。滑落した岩や、砂利、陥没したアスファルトが無数に点在しており、とてもではないがスピードを出して走れる道路では無いように感じた。


そんな道でもサイタのNinja250とユウキのW650は障害物を上手に躱してぐんぐんと加速していき、対向車が居ようものならクラッシュしてしまうような攻め方でコーナーを攻略していく。


「おいおいッ! おせーよ。早く来いって‼」


サイタが手を振って催促する。俺の乗るSR400は4速で50〜60kmをキープしていたが、これ以上加速しようとすれば5速まで挙げなければならない。トルクを維持するためには70〜80kmでの走行となるだろうが、そんな速度でコーナーに入ればあっという間にように崖の下に真っ逆さまだ。


「こんな道流石に無理だって!」


「いーから来いってッ‼」


いよいよサイタの声に怒気が混ざり始めた。俺が遅過ぎるため、気を遣いながら走らなければならないことに苛立ちが出てきたように感じる。本当はもっと飛ばしたいのだろう。


どう返しても「さっさと付いてこい」の一点張りである。ユウキはサイタの加速にもついて行けるようで、「もうちょっと飛ばしてくんないかな?」そう言いたげな困った顔でこちらを見ていた。


(これ以上は無理だ)


そう思った刹那、ついにそれまで大人しくしていたロッティ(SR400)が口を開く。


『もう良いわ、帰りましょう・・・・・・』





・・・・・・こんなツーリング、嫌。


同級生たちを前に、そのスピードに付いていけないのが恥ずかしかった。煽り立てられなが、焦りながら走るのも格好悪かった。


格好悪いにも程がある。


でも、本当にダサいと思えたのは、ロッティにそれを言わせてしまったことだった。


道の前方でサイタとユウキはバイクを停め、振り返ってこちらを伺っている。


「・・・・・・わりぃ! 俺もう帰るわ! 付いて行けんッ」


自分でも驚く程大きな声を出して、不思議とこみ上げてくる笑い堪え、車体をターンさせると「ちょっと待てって!」「悪かったって」そんなツマラナイ言葉で後ろ髪を引っ張る声を置き去りにして、往路よりも遥かに軽やかに、山を駆け降りたのだ。



焦りから熱くなっていた身体が山の冷えた空気で冷まされていく。なだらかな道に戻り、2人が追ってこないことを確認すると、俺はスロットルを戻していつもののんびり走行に還った。


緊張感が一気に四散し、ロッティが話しかけてきた。


『バイクって、開放感あるじゃない?』


「うん」


『それなのに人の顔色見て走るなんて、ちっとも楽しくないわ』


「うん」


『付いていくことなんてないわ』


「うん」


『貴方は貴方のペースで走れば良いの』


「・・・・・・うん』


SR400の奏でるビッグシングルの鼓動に合わせ、母が子に唄うような、そんな口調で彼女は言葉を紡いだ。俺はバイク乗りとして自分が一番大切にしなければならない部分を改めて思い返す。


彼女の鼓動が震える俺の心と共鳴して、すべての要らない感情を打ち消してくれているようでもあった。

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