マグナと2段階右折

2017年、夏。とある週末、俺とマグナ(マグナ50)は仙台市内にまで来ていた。流石に市街地ということもあり、車の往来は多かったが、大きな道路さえ気をつけて走ればロッティ(SR400)で来るよりも小回りが利いて便利だったため、仙台駅前付近に用事がある際はよくマグナで来ていた。


マグナと俺は視界の左端に標識を捉える。


『あっ、あちゃー。また二段階じゃん! ここ多いよねー』


現れた標識は『二段階右折』の標識であった。


50cc以下の原付や、自転車・リヤカーは低速であり通常車道の一番左端を走行することが多い。


何本も車線がある道路で右折しようとなると何度も車線変更をしなければならなくなり危険が伴う。


そのため『二段階右折禁止』等特別な指示がない限り、[右折を含む3車線以上の道路を走行する際]一旦交差する道路の左端に位置づけてからその車線の信号が青になるのを待ち直進する必要があるのだ。


これが『二段階右折』である。


行程が非常に煩雑で、原付とは言ってもフルスロットルでは60km近く速度が出るため、慣れた原付ライダーともなるとこの『二段階右折』を守らないことも多かった。


『・・・・・・あのさあのさっ、サクッとナチュラルに右折しちゃわない? アタシってば結構身体おっきいじゃん? 誰も原付だなんて気づかないって!』


彼女はちょっと嫌になってきた様だった。街中は細かいルールが設けられている箇所も多く、街路樹や歩行者信号などで標識が上手く見えないこともある。


「いや、マグナが交通ルールを率先して破ろうとしてどうすんだよ」


幼い少女の出で立ちを思えばこそ、『ルールは守るべき』と説いてみたが、


『でもオーナーだってたまに30kmの速度超過しちゃってるじゃん』


「う・・・・・・」


残念ながらルール順守の精神はすぐさまブーメランとなって帰ってきたのである。そして確かに、マグナ50は一見して原動機付自転車らしからぬ体躯であった。仮に警察が見張っていたとしても、二輪車に詳しい者で無ければ案外スルーされるかもしれない。それに、「バレなきゃ良いんじゃね」って考えも俺自身無い訳ではない。


しかしながらそれ以上に、マグナ50・・・・・・彼女でこそ『二段階右折で良い理由』があった。


「まぁ見てろ」


そう言って俺は二段階右折の準備に入った。


元々左端の車線を走っていたため、そのまま交差点が近づいたら右折のウィンカーを点灯する。信号は青だったため、そのまま交差点に進入し、横断歩道を渡る人たちの横をゆっくりとかすめ、交差する車線の左端先頭へと時計回りに90度向き直る。


自分自身ではわからないが、騎馬武者が足軽の統率を図るため馬を返しながら状況を伺う様に似ているのでは無いだろうか。


そして一連の動作の終わりに少しだけアクセルを強く吹かしてみせれば、堂々とした出で立ちの純正メガホンマフラーから、低く唸るような、それでいて歯切れの良いサウンドが放たれ、交差点へとこだまする。


そうすればわかるヤツにはわかるのだ。



「ッ!? 二段階右折したけど、あれって原付なの!?」


「あれで50cc?」


「お、マグナ50じゃん・・・・・・趣味良いねぇ、アイツ」



街中で、歩行者の量も多ければこうした新鮮な反応を楽しむことが出来た。


『恥ずかしいよッ! ・・・・・・・・・・・・でもちょっと誇らしいや・・・・・・負けたよオーナー。2代目マグナキッドはオーナーで決まりだね!』


「おいおい、もうキッドって歳じゃないぜ」


『じゃあマグナオジサン?』


「・・・・・・褒める気ある?」


みんなも楽しく安全に二段階右折を!

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