ロッティと旧友3

俺だって男の子である。かつてのクラスメイトたちに出来る限り喰らい付いて行くため、ツーリングの前日に特訓を試みた。


車通りも少なく、タイトなコーナーが幾つも存在する山道。俺はその日初めて『練習』という名目で同じ道を行ったり来たりした。


SR400は単気筒でエンジンブレーキが強く、ギアと速度が噛み合っていないと急激にスピード、或いはトルクを失う。それはつまり、適切なギアでコーナーに入らなければならないことを意味している。これはミッション車であればどのバイクでも同じことであるが、SR400は特に顕著であった。


『さっきのコーナー、1速落としていた方が良かったわ』


「確かに、スカスカだった」


高いギアでコーナーに突入すれば、トルクを失い車体を傾けることに抵抗が生じる。そこで恐れずにスロットルを開放していけば、まだ立て直すことが出来るのかもしれないが、俺は反射的にリアとフロントのブレーキに意識が行き、次いでシフトダウンしてしまった。そうなれば最早まともなコーナリングは出来ない。傾きかけた車体は直立し、あとはハンドル操作だけででぎこちなくコーナーを躱すしかないのであった。


その傾向が強く現れたのが下り坂であった。対向車と転倒への恐怖がスロットルの開放を躊躇わせ、ノロノロとした御粗末なライディングへと繋がる。せめてもう少しだけタンクが大きければ上手く車体を抱き込めるような気がするのだが、貧相・・・・・・ではなくスリムな彼女のタンクはブレーキングの度に俺を前方に投げ出そうとした。


かれこれ1時間近く山間を走った。流石に腕や腰に疲れが見え始めたため、ハザードを焚いて自販機の設けられた路肩へと車体を寄せた。


「どうだった?」


『まぁ貴方にしては上手くなったんじゃないかしら?』


『でもまだ力が入りすぎているわ』ロッティ(SR400)の的確なアドバイスを貰い、少し休憩した後再び山道へと戻る。


「明日、ついていけるかな?」


『どうかしら、マシン的にはほとんど互角だけれど・・・・・・』


Ninja250とW650を捕まえて、互角と言い張るロッティ。「だからその自信は一体何処から?」そんなツッコミが喉まで来ていたが運転中であるため取り敢えず聞き流した。


『まぁ向こうもバイク乗りなら貴方のスピードに合わせてくれるんじゃないかしら?』


「そう言えば、そうだよね」


『そうね』


「・・・・・・よし、特訓終了!」


『え?』


よく考えればそれが当たり前のことであった。何も頑張って追いつこうとしなくても、向こうがこちらに合わせてくれれば何も問題は無いのだ。コーナリングが下手と言っても法定速度的にはギリギリのラインであり、これ以上無理に飛ばす必要もないのだ。


『一体何のためにこんな山奥まで来たのよ』


「良いじゃん、紅葉狩りピクニックだと思ってさ」


『馬鹿ね、紅葉なんて何処にも無いわよ』


それもその筈、まだ夏の残暑が残る季節であり、紅葉は2〜3ヶ月は先かと思われた。


「聞いてくれロッティ・・・・・・俺の心の中にはいつだって君への真っ赤な熱い・・・・・・」


結果的に、ロッティは紅葉を観ることが出来たそうだった。俺の両方の頬に付いた2枚だけであったが。

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