ロッティと旧友2

「この前の飲み会のときの話だけど今週末あたり晴れだし、イケんじゃね?」


 仕事中、携帯のディスプレイを見て戦慄した。あの飲み会での強制的に「はい」と言わせる選択肢の応酬―――そんないい加減な流れで発生したツーリング計画は、なんと生きていたのだ。飲み会で交わされた口約束ほど効力のない約束があろうか。賃上げ要求は無かったことにされ、愛の告白は吐しゃ物とともに便器へと流される筈である(※上司への悪口は無かったことにされない可能性もあるので注意して欲しい)。




 思わず天を仰いだ。


 仕事を終え、自宅へと帰り、事の次第をロッティに話せば、いつもどおりの冷ややかな視線が浴びせられた。


『貴方、なんでそんな安請け合いしたのよ?』


「絡みがキツすぎてとりあえず行くって言っちゃったんだよ」


『とんだ甲斐性無しですこと』


「ですよねー」


 バッサリと見捨てられる。確かに。自分でもそう思ったが、そもそも飲み会を勧めていたのはロッティであり、その勧めさえ無ければ飲み会自体に参加していなかったのだ。彼女にも責任のカケラくらいはあっても良いように思えた。


 そんな考えが不満の色として瞳に現れたのか、ロッティは即座に話題をシフトさせてきた。


『―――ところで、一緒に行く御学友のバイクはどんな娘たちなのかしら?』


「Ninja400とW800だってさ」


 飲み会のときに写真を見せてもらっていたのだ。どちらもSRと同排気量ではあるものの、明らかに高回転で高速なバイクであるかに思われた。それに俺のライディングスキルが加わることで、置き去りにされる姿は想像するに難くない。


『⋯⋯なんだ、余裕じゃないの』


「えーと⋯⋯その自信は一体何処から?」


『これまでに培った歴史ね』


「⋯⋯」


 ダメだこの娘、早く何とかしなくては。ドヤ顔で言い放つロッティの脇から小さな影が飛びかかってくる。


『じゃあさじゃあさっ、アタシと一緒に行こうよ!』


 マグナであった。俺の腹に巻き付いた彼女はロッティと違い、雨の日だろうが、暑い日だろうが、はたまた長距離であろうがお構いなしに走りたがる健気なところがあった。


『ふん、大人のツーリングの話に原動機付自転車はお呼びじゃないわ―――あっちでアニメでも観てなさいな』


 ロッティはヒヤリとした言葉でマグナをあしらう。相手がライバル企業のHONDAだからなのか、排気量が小さいからなのかは分からなかったが、彼女はマグナに対して当たりが強かった。無論俺にも強い。


 しかしながらマグナだって負けてはいない。


『あ、ロッティ、それサベツだよ、原付サベツ』


 相変わらず俺の腹にしがみつきながらも、イケないんだ、とあっかんべ、をかます。


『まぁ⋯⋯この子ったら、一体何処で差別なんて言葉覚えてくるのかしら』


 この二人のやり取りを、笑えば良いのか、嗜めるべきか、悩みどころではあったが、ツーリング当日、Ninja400とW800の前にマグナ50で現れたなら、違った意味で伝説になるような気もした。流石に400ccを超えるバイクと並走は出来ないだろうが。


「悩むな……」


 散々議論を尽くしていると、自分自身何処に悩んでいるのかわからなくなってきていた。


 ツーリングに行くべきか悩んでいるのか、ロッティとマグナどちらと行くべきか悩んでいるのか、はたまたお誘いをどう断るべきか悩んでいるのか、


 いよいよ脳味噌が熱くなり始めた頃である。


『もう……諦めて参加しなさいな』


 ロッティがポツリと零す。上手い断り文句が思いつかず、最早そうするしか無いようにも感じられた。


 ひとつ大きなため息を漏らし、ついには観念して旧友たちとのツーリングに参加することにしたのであった。

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