ロッティと旧友2
この前の飲み会のときの話だけど今週末あたり晴れだしイケんじゃね?
仕事中、携帯のディスプレイを見て戦慄した。あの飲み会での強制的に「はい」と言わせる選択肢の応酬。そんないい加減な流れで発生したツーリング計画は生きていたのだ。飲み会で交わされた口約束ほど効力のない約束があろうか。賃上げ要求は無かったことにされ、愛の告白は吐しゃ物とともに便器へと流される筈である(※上司への悪口は無かったことにされない可能性もあるので注意して欲しい)。
思わず天を仰いだ。
仕事を終え、自宅へと帰り、事の次第をロッティ(SR400)に話せば、いつもどおりの冷ややかな視線が浴びせられた。
『貴方、なんでそんな安請け合いしたのよ?』
「絡みがキツすぎてとりあえず行くって言っちゃったんだよ」
『あーら、とんだ甲斐性無しだこと』
「ですよねー」
確かに。自分でもそう思ったが、そもそも飲み会を勧めていたのはロッティであり、その勧めさえ無ければ飲み会自体に参加していなかったのだ。彼女にも責任のカケラくらいはあっても良いように思えた。
そんな考えが不満の色として瞳に現れたのか、ロッティは即座に話題をシフトさせた。
『ところで、一緒に行く級友のバイクはどんな娘たちなのかしら?』
「NINJA250とW650だってさ」
飲み会のときに写真を見せてもらっていたのだ。どちらも明らかにSR400よりも高回転で高速なバイクである。それに俺のライディングスキルが加わることにより、置き去りにされる姿は容易に想像出来た。
『なんだ、余裕じゃないの』
「その自信は一体何処から?」
『歴史ね』
「・・・・・・」
ダメだこの娘、早く何とかしなくては。
そこへ、小さな影が飛びかかってきた。
『じゃあさじゃあさっ、アタシと一緒に行こうよ!』
マグナ(マグナ50)であった。俺の背中に乗っかったマグナはロッティと違い、雨の日だろうが、暑い日だろうが、はたまた長距離だろうがお構いなしに走りたがる健気なところがあった。
『原付はお呼びじゃないのわ。あっちでアニメでも観てなさい』
ロッティはヒヤリとした言葉でマグナをあしらう。相手がライバル企業のHONDAだからなのか、排気量が小さいからなのかは分からなかったが、ロッティはマグナに対し当たりが強かった。しかしながらマグナだって負けてはいない。
『あ、ロッティそれサベツだよ、原付サベツ』
『まぁ・・・・・・この子ったら、一体何処で差別なんて言葉覚えてくるのかしら』
2人のやり取りを笑えば良いのか、嗜めるべきか、悩みどころではあったが、ツーリング当日、NINJA250とW650の前にマグナ50で現れたなら、違った意味で伝説になるような気もした。しかし、マグナでは流石に250cc以上のバイクと並走は出来ない。
「悩むなぁ・・・・・・」
散々議論してみれば、自分自身何処に悩んでいるのかわからなくなってきていた。
ツーリングに行くべきか悩んでいるのか、ロッティとマグナどちらで行くべきか悩んでいるのか、はたまたどう断るべきか悩んでいるのか、
いよいよ脳味噌が熱くなり始めた頃である。
『もう諦めて参加しなさいな』
ロッティがポツリと零す。上手い断り文句が思いつかず、最早そうするしか無いようにも感じられた。
俺はひとつ大きなため息を漏らし、ついには観念して旧友たちとのツーリングに参加することにしたのであった。
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