ロッティと旧友1
2018年、秋。
「え! お前バイクノッてんの!?」
それは茹だるような夏の暑さも収まりを見せ始めた頃のことだった。
同窓会なんて、行くもんじゃない。
唐突に知らない番号からメッセージが届いたかと思えば中学時代の同級生だった。気が良く、頭が良く、顔の良い奴だったのを朧気ながら覚えていたが、そこまで仲が良かった訳ではない。何故俺の番号を知っていたのだろうか。
曰く、
「同窓会やろうぜ!?」
行きたくない。別にかつて虐められていたとか、クラスメイトと仲が悪かったとかでは無かったのだが、それ以上に会いたいとも思わなかったのだ。
漠然とそんなことを考えながら、だからといってどのように断ったものかと思案していると、ロッティ(SR400)が携帯を覗き込んできた。
『あら、楽しそうじゃない・・・・・・かつての旧友と今も変わらぬ友情を温めて』
流石は40年その姿をほとんど変えること無く今へと至るヤマハの看板令嬢SR400である。言うことが違った。
『誰か良い娘が居たりして』
「居ないよ、そんなの」
からかうように唆すロッティだが、残念ながらそんな娘は居ない。自分自身言ってて悲しくもなるが。
「俺は、その・・・・・・何と言うか、ロッティたちがそばに居てくれればそれで良いから」
割と素直な一言だった。それが今の俺にとっての『全部』であったように思う。
『え?』
聞こえていて敢えて聞こえない振りをしたのか、或いは本当に聞こえなかったのか、ロッティは俺に復唱を促した。
「やっぱり何でもない」
気乗りはしなかったのだが、ロッティからの勧めもあり、同窓会と言う名の単なる居酒屋での飲み会に参加することにしたのであった。
そして、せせらぎ町の小さな居酒屋にて、かつての旧友(と言っても地元に残る10名程度であったが)は集まった。
各々久々の再開に喜び合い、祝杯を交わす。各々の会話に徐々に花が咲き始めた頃、「お前今何やってんの?」唐突にそう尋ねられた。中学の時も声が大きく、ムードメーカーをやっていたような奴だった。「お前今何やってんの?」これは基本的に「今何の仕事をしているのか」という質問であるが、何を思ったのか。
「バイクに乗ってるよ」
俺はそのように答えた。
「え! お前バイクノッてんの!?」
何人かはバイクと言う単語に反応し、俺の席の周りを囲んだ。2人しか来ていなかった女子も「え、すごーい!」などといった反応を示す。
ただちょっと格好付けてみただけであったが、黄色い反応に僅かながら高揚感を覚えたのも事実であった。
しかし、覚えておくが良い。口は災いの元である。
「マジで? 俺もバイク乗ってんだよ!」
最初に連絡をくれた男、才色兼備のユウキとスポーツが得意だったサイタもバイクに乗っていることが判明した。こうなると血気盛んなかつての級友のこと、「今度の休み、一緒にツーリング行こうぜ?」そういった流れになったのは自明の理と言えた。
「俺は他の人と一緒に走れるほど上手くないから、遠慮しておくよ」
実際誘ってもらえた事自体はとても嬉しかったが、以上の理由で丁重にお断りした、つもりだった。
「オイオイ! ツレないこと言うなって!」
酒の席ということもあってサイタは大きな声で俺の言葉を食いながら絡みついてきた。とてつもなく力が強い。
「いや、真面目な話で・・・・・・」
「オイオイ! ツレないこと言うなって!!」
「だから、あの・・・・・・」
「オイオイ! ツレないこと言うなって!!!」
何度断っても同じ選択肢へと回帰するゲームのような展開がしばし繰り広げられた。さらに、断る度に腕の締め付けが強くなり、また声も大きくなっていることで周りのお客から白眼視されそうだったので、結局その場では、「こ、今度な」そう茶を濁して何とか逃げ切りを図ろうとしたのだった。
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