ロッティと夕立ち1

2018年、夏。幼少期、子供ながらに「仙台の夏は寒い」そう感じていた。いまいち煮えきらない天気、曇ってばかりの空、それでいて台風は仙台に到達する直前で逸れてしまうため運動会は休みにならない。直前までどうなるのか分からないため、やきもきした日を過ごす。そして当日の朝に花火の音を聞き、「結局あるんじゃん」とため息を漏らしたものだ。


しかし今はどうだ。世間では地球温暖化を巡って様々な機関や研究者、ひいては国家までもがあーでもないこーでもないと論争を繰り広げていたが、実際に暑かった。


かつての覇気に欠けた太陽の姿は見る影もない。肌や目に刺さるような紫外線をこれでもかというほどばら撒いてその存在を誇示する。


たとえ雲で太陽が隠れていても、当たり前のように気温は30度を超え、連日「今日は何人が熱中症で倒れた」というニュースが報じられた。


一昔前までは「身体に悪い」「鍛え方が足りない」などと言われたエアコンも積極的に使用が促されている。そんなニュースを見かけるにつけ、沸々とやるせなさが込み上げた。


「こちとらエアコン要らずの仙台っ子。現代人は鍛え方が足りん!」


残念な事に月26000円で一軒家タイプの借家であった我が家にはエアコンは装備されていなかったのだ。


無い袖は振れない。無い胸は張れない・・・・・・ロッティ(SR400)のように。そう思いムフフと含み笑いしてみれば『何か言った?』と鋭い指摘、「いや、何も」と空とぼける。これが相棒とのお決まりの掛け合いであり、ロッティの研ぎ澄まされた観察力にも動揺することは無くなっていた。


『そう。じゃあ、何か考えた?』


「へ? い、いやっ、何も?」


その揺さぶりに、車体をスイングさせてしまった。恐ろしいことに彼女は俺の腹の中すらも見抜いているのかもしれない。


正に相棒と呼ぶにふさわしい。というかちょっと怖かった。グリップを握る手が汗ばむ。


『気を付けて頂戴ね。走っている間は路面に集中して』


「わかった!」


何しろ久しぶりのランデヴーであった。余計なことは考えず、彼女に乗ることで得られる一体感、SRの持っている独特の鼓動感、そして、流れる風や景色を楽しむことにした。


しかし、そんな俺達の頭上では近年日常と化していた異常気象のせいか、夕立ちを孕んだ雲がその勢力を急速に強めているのであった。

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