ロッティとマグナと家族会議
2018年、夏。ロッティ(SR400)との出逢いからおよそ1年、ひょんなことからマグナ(マグナ50)が家族の仲間入りを果たし、俺は複数台持ちのバイクオーナーとなった。
ある日、フロントフォークのオーバーホールを終え、いよいよ本格的に運用が期待されるマグナ、そしてロッティとともに「家族会議」を行った。
居間の小さなちゃぶ台を挟んで向かいにはタンクの意匠をあしらった漆黒のショートジャケットを着込んだ不満気な面持ちのロッティ。その隣にはロッティのクロームメッキの艶を写し取ったかのような透き通る銀色の髪と対を成すような金色の髪に、向日葵の如く満面の笑顔のマグナが座る。
この2人、改めて並べて見てみると、さながら月と太陽のようであった。
『・・・・・・で、会議って何かしら』
半分ほど開かれた涼しい瞳のロッティ。
「今日は2人の乗り分けに関して話をしておきたいんだ」
SR400にマグナ50、排気量で言えば400ccと50cc、必然的に出せる出力が違い、速度が違い、結果的に移動できる距離が違ってくる。
「通勤はこれまで通りロッティと行く」
家から会社までの距離はおよそ15km、距離の問題もあったが、任意保険の関係で会社へはロッティでしか行くことが出来なかったのだ。
『・・・・・・そう、他は?』
相変わらずのジト目、構わずに続けた。
「コンビニとか、近くのスーパーに行くときにはマグナで行こうと思うんだ」
以前より5kmを切る小規模な移動の際、ロッティに苦言を呈されることがあった。曰く『エンジンが温まるのに10kmくらいは走ってもらわないと困るわね』とのこと。
『やった! 夜のコンビニデート!』
「夜行くとは言ってないけどね」
『・・・・・・』
喜ぶマグナを横目にロッティはほんの少しだめ目を細めた。
「どうかした?」
『いいえ。何でも無いわ・・・・・・』
「ロッティ、近場の移動は嫌だって言ってた、よね?」
『そうね』
ロッティとのやり取りは尻すぼみになってしまったが、決めるべきところはしっかりと決め、その日の会議はそれでお終いとした。
その後、最近マグナに掛かりっきりで、なかなか乗ってあげられて居なかったロッティと少し遠出することにした。
エンジンを始動のため、キックペダルに足を掛けると腕組みをするロッティが呟いた。
『知っているかしら?』
「ん?」
俺はデコンプやペダルの位置を調整しながら彼女の話を聞いていた。
『古来よりヒトには「二兎を追う者は一兎をも得ず」という有難いことわざが存在するようね』
「・・・・・・あぁ、あったね」
『覚えておきなさい・・・・・・バイクでもね「二台を持つものは膝を蹴られて死んでしまえ」ってことわざがあるのよっ!」
「イッテぇぇぇぇッ!‼」
蹴られた。なんで!?
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