マグナとフロントフォーク4

フロントフォークのオーバーホールをすべて終え、店正面の駐輪スペースにマグナ(マグナ50)の車体が出された。


一生懸命磨き、錆の一切が払われたフロントフォークが陽光に輝き、ほんの少しだけ誇らしい気分になる。


『わぉ! キレイになったねぇ!』


自身の車体を見てマグナもご満悦の様子で、屈託の無い向日葵のような笑顔はこちらにも向けられた。


「試しにちょっと走ってきてみて〜」


マチダさんに修繕の成否確認も含め試運転が必要となることが伝えられた。


「了解です!」


早速タンクの脇に設けられたキーシリンダーに鍵を差し込み、エンジンを掛けてみた。


Brrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrn!!!


相変わらず、50ccとは思えない存在感でマグナ50は再始動を果たしたのであった。


「行くぞ」


『うんっ!』


つい先日もマグナには乗っていたのだが、ちゃんと整備を行った後では感触が全然違った。


バイク屋へと赴いた際はどうしても車体に対する不安から、感じ取ることが出来なかったマグナ50という1台のバイクを、今ではしっかりと感じることができた。


よくあるビジネスバイクとは違い、ローギアが極端に狭いということはなく、通常の250ccなどをそのまま小さくしたように、各ギアが均一に吹け上がる。全くストレスを感じさせないマイルドで心地の良い加速だ。


そしてライディングポジションから見えるヘッドライトからトップブリッジ、そしてスピードメーター、タンクキャップに至るまで伸びるクロームメッキの羅列が陽光を受けて光り輝く。目を向けるたびに細めてしまうのは眩しさか、あるいは嬉しさなのか。磨き上げたのが自分だと思えば、その悦びもひとしおと言えた。


今、数年間の眠りから目を覚まし、身体に巣食う膿を出しやり、世界のHONDAが生み出した原動機付自転車の異端児、マグナ50は確かな鼓動を路面に刻みつけて勢いよく地面を蹴り進んだ。


『ねぇねぇオーナー! もっともっと飛ばそうよ! アタシまだまだ行けるよ!』


「おいおい、原付きの法定速度は30kmだって・・・・・・お前知ってて言ってるな? 帰ったら小突いてやる」


『なんでー!』


加速を唆すマグナを嗜めた筈の俺であったが、スピードメーターは既に赤く点滅していた。


※法定速度は守りましょう。

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