マグナとフロントフォーク1

2018年、夏。仙台の夏にしては珍しくカラリと晴れ渡り、早朝に花火でも挙がっていれば小学生の頃の運動会に思いを馳せたくなるような清々しい日和であった。


マグナ(マグナ50)のフロントフォークオーバーホールをお願いすることになったバイク屋、BigLifeに到着すると、ちょうど開店直後らしく、店主であるマチダさんが屋内から表のスペースにバイクを出し終えたところであった。


「おはようございます! 今日はよろしくお願いします!」


体操着ではなく作業着に身を包む俺は、町田さんへ深々と頭を垂れ、先程コンビニで調達した献上品を渡す。


「お! ありがとう〜」


向日葵のような笑みでビニール袋を受け取ると、早速中の無糖カフェラテを取り出した。


「んじゃあ、休憩にしよっか」


「・・・・・・ん?」


只今午前10時10分、開店後およそ10分での休憩入りであった。そもそも休憩とはある程度作業が進んでからとるものではないのだろうか?


『ねぇ、このバイク屋さん、ホントに大丈夫かな?』


「こら・・・・・・聞こえちゃうから」


作業着の裾を引っ張るマグナがマチダさんの挙動を訝しむのは当然と言えた。俺だって内心は同じ気持ちであったが、ここまで来た以上もはや成り行きに身を任せるしか無い。


マチダさんはカフェオレを手に店の奥に戻ると灰皿を取り出してこちらにも勧めてきた。「吸うでしょ?」


焦っても仕方がない、そのように自身に言い聞かせ、ポケットから煙草を取り出した。


最近(でもない)流行りのプラ容器に入った(チルド飲料と言う)タイプのカフェラテ。スチール缶のタイプと違いガスの雑味が少なくまろやかな味わいがあり、煙草の香りとも良く適合していた。ラテと煙を交互に舌で転がして楽しむ。


いやいや、こんなにのんびりしていて良いのだろうか?


テーブルの上に置かれた煙草にマグナが手をのばす。「こら、やめなさい」イタズラしないよう煙草をポケットに戻す。


『えーなんで?』と残念そうな顔をしてみるマグナであるが「なんでも」としか言いようがない。アメリカン改め、ジャメリカンらしく金色に染め上げた髪、加えて身体つきこそ出るところが出っ張っているマグナであるが、所詮は50cc、要は子供なのだ。絵的に煙草は良くないように思われた。


「ボアアップしたらな」


適当な言い訳が思い当たらず、ともかく煙に巻いて躱すのであった。

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