マグナとBigLife4

BigLifeへマグナ(マグナ50)のフロントフォークオーバーホールをお願いするのに付随して、俺はもうひとつ頼み事をしていた。


それは、


「作業で何か自分にもお手伝い出来ることは無いでしょうか?」


口に出してみて速攻で後悔した。当然である。その道のプロフェッショナルを目の前にして失礼な物言いであった。まして知識も技術もゼロのド素人である。足を引っ張ることさえあれど、役に立つことなど無いように思われた。


何故そんな身の程知らずなことを口走ってしまったのか。俺だってオトコノコである。自分自身で工具を扱い、乗り回す相棒の簡単な整備やカスタムが出来てこそ一人前、という野心があった。無論お金を払い、しっかりと見てもらうのであればその方が良いのであろうが、自分自身で整備を行えば、浮いた工賃の分カスタムパーツにお金を回すことが出来るのではないかという小賢しい考えも頭の片隅にはあった。


そういった理由でかねてよりピットを見学してみたいという欲求を抱えていたのだが、ロッティ(SR400)の整備時は奥にあるピットへと連れて行かれ、帰ってきたときには作業は完了していた。店頭スタッフも忙しなく動き回る中、とてもではないが「ピット見学がしたい」と言える状況では無かった。


折角整備の担当を乗り換えるのであれば、頼むならばこの際にと考え、つい要らないことまで口走ってしまった。


しかし、


「お、イイネ〜」


なんとマチダさんからは「良いね」を頂いてしまった。曰く、「自分の乗るバイクを良く知るためにも良いことだよ」カラカラとした笑みで返してくれた。どうやら、こちらの熱意と意図が伝わったようであった。



そしてBigLifeを訪れた翌週末、俺は汚れてもいい作業着を着込み、マグナを連れ出した。


『オーナー、やる気まんまんだねぇ』


「おうよ」


家を出た俺たちはすぐに店には向かわず、近くのコンビニへと向かう。


値段にしても整備の手伝いにしても、大分融通を利かせて貰っているのだ。せめて飲み物と軽食くらいは用意せねばと思い、それらを買い揃えてBigLifeへと向かうことにした。


リュックに買い物袋を仕舞う際、マグナが中身を覗いてきた。


『うわっ、なんかピクニックみたいだね!』


「遊びに行くんじゃないぞ、お前を直しに行くんだから・・・・・・」


イマイチ緊張感に欠けるマグナであったが、俺自身は整備の手伝いなど果たして出来るのか心配になっていた。一応この日のために動画サイトでフロントフォークの整備の風景を何度か見返していたが、トップブリッジ周りを分解したり、ホイールを取り外すのはとても骨が折れそうに思えた。


「勢いで手伝うなんて言ってしまったが・・・・・・果たして大丈夫だろうか?」


しかし「やる」と言ってしまった以上邪魔になることだけは避けたい。


『たぶん大丈夫だよ、オーナー。イージーにいこ』


Take it easy. 正にアメリカンといったノリでぽんぽんとマグナに肩を叩かれる。満面の笑顔である。不安なんて微塵も感じさせない。そういったお気楽ご気楽な笑みを貰うと不思議と俺自身も肩の荷が降りるようであった。


「そうだな、心配しても仕方がないな!」


よし行くか、とバイク屋までの道のりを再びマグナとともに走るのであった。

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