マグナとOSHIGAKE!6
「だめだよ〜。掛かってすぐはアイドリングが安定しないんだから少しくらい煽ってあげないと〜」
未だパスパスとマフラーを燻らせるマグナ(マグナ50)の車体を見て店長が笑った。車体のエンジンが急に止まってしまったのも、マグナが倒れたのも、何のことはない、久々の始動でアイドリングが安定しなかっただけで、単なるエンジンストールであった。
「マグナ、お前・・・・・・紛らわしいわ!」
心配して駆け寄って、大声で叫んでみて、まさに恥のかき損である。SNSで『死んだふりゲーム』というものが流行っていたのを思い出してしまった。そしてよくよく見てみれば、瞼を閉じてはいるものの、マグナの口元はうっすら笑みを湛え始めていた。堪えきれなくなったのであろう。ムカッと来たのでデコピンしてやった。
『やん! もっかいやってイイ?』
「やめなさい」
マグナは悪びれもせずただただ嬉しそうにしているのであった。オーナーとしては彼女をちゃんと叱ってやり、躾けるべきではないかとも考えたが、数年に渡って前オーナーに放置されていたのだ。大雨の日も、雪の寒い日も、あの駐輪場でオーナーが乗ってくれるのをずっと待っていたのだ。
その日が今日ようやく訪れたのだ。無邪気なイタズラくらいは可愛いものに思えた。
気を取り直して2度目の押しがけを行う。相変わらずアイドリングは弱々しかったものの、流石は世界のHONDAと言ったところか、数年越しの始動であってもすんなりとエンジンに火が入った。しばらくの間アクセルを開放し、強めのアイドリングをとってやる。いよいよ走れると更にマグナは喜んで、準備体操を始めていた。
「50ccだからあんまり飛ばさないと思うけど気をつけて行ってらっしゃい。すっごく良いバイクだからちゃんと直して大事に乗ってあげてね〜」
ひと仕事終わったとばかりに店長はタバコに火を着けた。「いや、料金発生してないから仕事ではないのでは?」とツッコミを入れたくなったが、こちらとしては有り難い話でもあったため、喉元でその台詞を抑え込んだ。
「何から何まですみません・・・・・・ありがとうございます!」
結局最後まで商売の話をせずすっとマイペースだった店長に深々と礼をし、ついに俺とマグナは公道へと駆り出すのであった。
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