マグナとOSHIGAKE!5
陽気な店主の薦めで俺は押し掛けに挑戦、もとい押し掛けを敢行することとなった。
それにしてもである。この店主「うちで見れば?」と一言言えば商売にも繋がるというものを、そのような主旨の話を一切して来ないのである。単に趣味でやっているガレージなのか、あるいは原付など小排気量の二輪車は好んで見ないのだろうか。店頭に並べられたバイクの中にはスクーターも混ざっているようだが、
「んじゃまず電源入れて3速に入れてみて〜」
「はい、マスター!」
人の店の心配はひとまず頭の片隅に追いやり、俺はマグナ(マグナ50)の押しがけに集中することにした。
『ガンバって、オーナー!』
「おう、任せろ」
店主が次の指示を出す。「あとはクラッチレバーを握って思いっきり走って〜」指示の通りの作業を行い、店の前の歩道を駆けた。
さて、前に説明したことだが、この『Big Life』というバイク屋は大きな国道へと向かうそこそこ大きな通りに面している。つまり自動車・歩行者を問わずそれなりに交通量のある場所で押し掛けを行っていたことになり、道行く人々からは「何事か?」と好奇の眼差しを向けられるのである。ちょっと恥ずかしい。
「よ〜し、クラッチレバーを離して〜」
十分に加速がついたと判断されたのか、俺がクラッチレバーを手放したその瞬間であった。
Brrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrn‼‼
ヘッドライトに光が宿り、世界一の名車と歌われるHONDAスーパーカブと同じ心臓がその鼓動を取り戻した。運動エネルギーがそのままエンジンを動かす原動力となったのであろうが、初めてそれを体験する身としては何もないところから勝手にエネルギーが生まれたようにも感じ得た。
「す、すげーや、ホントに掛かった」
『ヤッタぁ! オーナー見て見て! アタシ、エンジン掛かったよ!』
俺は一旦車体のスタンドをかけてマグナの居る方に向かう。マグナも嬉しそうにこちらに向かって走ってきた。エンジンが掛かる前であれだけテンションが高いのだ。エンジン始動の喜びはハイタッチなんかでは収まるまい。ひょっとしたらハグやらチークキスやら色々とされてしまうのではなかろうかと期待した。アメリカンだけに。
しかし、こちらへと向かう最中、銃で撃たれたかのようにがくりとマグナは崩れてしまった。
「・・・・・・ッ! お、おい! 大丈夫か‼!? マグナッ!」
すぐに倒れた彼女に駆け寄ってその身体を抱き上げる。彼女が倒れたのに何か因果関係があるのか、車体のアイドリングが急に不規則になり、次第に弱まっていった。
『ね、ねぇオーナー・・・・・・エンジン掛かったよ? ど、うかな? かっこ、いい、かな?』
「お、おいおい何言ってんだ? 最高にかっこよくて綺麗だよ!」
『そ、そっか・・・・・・よかった・・・・・・嬉しいなぁ・・・・・・拾ってくれてありが・・・・・・と』
懸命にそんな言葉を紡ぎ終えると、マグナはその首部をがっくりと項垂れ動かなくなってしまった。『嬉しい』と言ってくれた笑顔もそのままに。
そしてついに車体のエンジンも完全に停止してしまったのであった。
「マグナ? ・・・・・・おい、マグナ? マグナァーッ‼‼」
悲痛な叫びが表通りにこだました。
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