マグナとOSHIGAKE!4

『すごい! 足すっごい軽いや!』


 空気圧を適正な値に調整してもらったマグナ(マグナ50)は嬉しそうに飛び跳ねたり、お店の敷地内を走り回ったりしてみせた。


「こら、あんまり人様のお店の敷地ではしゃがないの・・・・・・」


 叱りながらも「ありがとうございます」と空気を入れてくれた店主に頭を下げた。「あの、お題とかって・・・・・・」


「え? いーよ、いーよ!」


 爽やかというよりかはカラカラとした、湿度のない笑みで店主は代金を拒否した。空気入れの機材を片付けて再び店の前に姿を現すと、ぐるりとマグナの車体の周りを一周してみるのである。


「・・・・・・う〜ん、タイヤはヒビが入っているから、出来る限り早く変えた方がイイねぇ・・・・・・あとフロントフォークだけはオイル漏れが酷そうだからすぐやんないとマズいね〜」


「マズいんですか?」


「マズいね〜」


 やはりと言うべきか、指摘されたのはフロントフォークであった。加えて路面へと直に接しているタイヤ・・・・・・走行に関わるパーツはそれだけ修理の優先度が高い。この店主が凄いのか、あるいはバイクを扱う人間であれば一目見ればどこが良くてどこが悪くなっているのか分かるものなのだろうか。


「今からとなり町のバイク屋で見てもらおうかと・・・・・・」


「え!? あそこまで行くの? 5km ぐらいあるんじゃない? 押して歩いていくの?」


「え、えぇ、まぁ」


 案の定驚かれた。凡そ5kmの距離を押し歩くのは困難でもあったが、何より山を1つ超えていく必要がある。とはいえエンジンが掛からないのでは押して歩くほかない。


「あ〜なるほどね」店主は納得したように笑った。


「だったら『押し掛け』してみたら?」


『押し掛け』とはバッテリーの電圧が下がってしまい、あるいはバッテリーがあがってしまった場合などでセルが回らないバイクのエンジンを始動させる方法の一つであった。その単語自体は何度か耳にしたことがあったものの、本当に聞いたことがある程度で、それがどんなものなのかは知らないし、まして実際にやってみたなどなかった俺である。


しかしこれは良い機会かもしれない。そう思った。


「・・・・・・試してみます」


 その言葉に、ついに店主の表情が変わった。優しく垂れた眉を密かに吊り上げ、眉間に皺を寄せた。


「違う!」


 ほんの少しの怒気と戒めを孕んだ厳格な声に、俺の背筋は定規が当てられたようにピンと伸びた。


「 『試す』じゃない・・・・・・やるか、やらないか。それだけだ」


「・・・・・・マスター!」


 店主の顔が緑色に見えたのはきっと気のせいだろう。





※『スターウォーズ EP6 帝国の逆襲』より

ジェダイマスターヨーダの名言の1つ。Xウィングが水没してしまい、それをフォースで引き上げようとするルーク・スカイウォーカーが「試してみます」と言ったところ、「違う、 試すではない・・・・・・やるか、やらないか。それだけだ」とルークを諭す。


以下原文

No! try not, do, or do not, there is no try

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る