ロッティとマグナ5

『・・・・・・やっぱりアタシっておじゃま虫だったりするのかな?』


 最後までロッティ(SR400)の話を黙って聞いていたマグナ(マグナ50)であったが、ついに申し訳無さそうに口を開いた。


 まるで急な夕立の前触れのようなポツリと落ちたその言葉に引き寄せられたのか、南の空からは灰色の雲がその勢力を伸ばしていた。


『・・・・・・』


 流石に言い過ぎたと感じたのか、ロッティ(SR400)はしばし返事に窮する。オートバイにおいて愛は割り算・・・・・・確かに、ロッティの言葉通り、愛を量るバロメーターにおいて『お金』という存在は欠かせないものなのかもしれない。


 でもそれだけではないんじゃないか、と無責任に思った。


「冬の間、少しでもロッティのことを知ろうと思って色々調べていたんだ」


『そうね、そう言えばさっき聞いたわ』


 マグナとの馴れ初めを話す段階でチラリとその話はしていた。


「それでさ、マシンの構造はみんなそれぞれ違うと思うんだけど、各パーツは概ね似通っていると思うんだ」


『バイクだもの、それはそう』


みつ○さんみたいだったとは突っ込まない。喉までは来ていたが。


「つまりマグナを直す上で費やした時間だったり、知り得た知り知識って二人に共通していると思うんだよね」


 無論、費やせるお金には限りがあり、俺に関してはその額も決して多いとは言えない。それでも、ひとつひとつのパーツを分解したり、再び組み直したとき、俺はよりバイクのこと、ひいてはロッティのことを理解している筈だ。


 自身でメンテナンスや改造が出来るようになれば費用も浮くだろうし、まさに一石三鳥の発想だった。しかし、いきなりそれをロッティで行うには抵抗があった。その貧相過ぎる・・・・・・ではなくスレンダーな体躯に似合わず排気量はなんと400ccもあり、車検も存在するため、素人が下手に手を加えてしまっては大変な事になりかねない。


 そこで原動機付き自転車でありミッション車でもあったマグナはまさに渡りに船という存在でもあったのだ。原付というチョイスに至ったのも、距離に合わせた使い分けが容易であったのもそうだが何より、構造のシン プルさからメンテナンスが容易であろうと思ったからだ。


 丁寧に順を追って二人に俺の中に眠る熱い思い、そしてこれからの展望を話し聞かせた。


『・・・・・・』


『・・・・・・』


 終始『コイツ何言ってんだろう?』という顔でこちらを眺めていた二人であったが、ようやくロッティから口を開いた。


『・・・・・・えっと・・・・・・つまり、何? 貴方は私への愛を深めるためっていうのを口実に、手頃に分解できそうな娘を・・・・・・それもこんなあどけない原付娘を拐かしたってこと?』


「あの・・・・・・えっと、言い方ね」


「かどわかす」だなどと、あまりに人聞きの悪い解釈と物言いであった。気をつけて頂かないと貴方の大事なオーナーはお巡りさんに捕まることになってしまう。しかしその歪曲表現に対してマグナは喜々として手を叩き笑った。


『うーわ、サイコパス』


「おいやめろ」


 絶対こいつら分かってからかってるな、と内心悪態を付きながらも、寧ろこれはロッティの優しさなのではないだろうかとも思えた。したりとした笑みを浮かべる彼女の瞳が『このくらいで許してあげる』そう言っているように思えた。


 よくよく考えてみれば、いきなり別なバイクを紹介すれば、ロッティだって『自分は用済みなのでは?』と焦るに違いない。ちょっとした勘違いではあったが、今回の騒動もその勘違いが産んだヤキモチであったとすれば可愛げもあるというものだ。



『さ、家に入るぞ・・・・・・本当に降ってきそうだ』


 急速接近する灰色の雲に追いたてられるように、俺たち三人は我が家へと帰還するのであった。

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