ロッティとマグナ3

『どこをどう突っ込んであげたら良いのかしら?』


 混乱ここに極まれり、とばかりにロッティ(SR400)はこめかみを抑えて天を仰いだ。


『とりあえず、この状況がどういうことなのか説明して頂戴・・・・・・』


「りょ、了解した」


 説明を求める彼女に齟齬があってはいけないと考えた俺は順を追ってこれまでの物語を話して聞かせた。


 オートバイへの造形を深めるための勉強の一環としてマグナキッド、そしてマグナ50というバイクの存在を知ったこと。たまたま訪れた定食屋近くの住宅街でマグナ(マグナ50)と出逢ったこと、彼女と逢瀬を重ねるうちに愛着を持ち始めていたこと、そしてロッティの励ましもあって引き取ることを決意し、前のオーナーに掛け合って譲って貰ったこと・・・・・・


『ちょっと待って』と話の途中で急に手のひらを翳して話を遮ったロッティ。


『タダで譲って貰った訳では無いわよね?』


 その鋭い指摘と眼光にたじろいてしまった。


 名誉のために言っておくが、嘘を付こうとか隠し立てしようと思ったわけではない。厳密に言わなかっただけである。厳密に言えば「有償で譲って貰った」となる。


『いくら?』ロッティはこめかみを押さえ、俯きながらも髪の隙間から鋭い視線をこちらに向けていた。


『一体いくらで前のオーナーから譲って貰ったのかしら?』


「さ・・・・・・3万円 ・・・・・・」


 嘘だった。本当は4万円だった。


 一体俺はどんな罪悪感から金額をちょろまかそうとしてしまったのか。「譲って貰った」までは嘘ではなかった筈が一瞬で本当の嘘つきになってしまった。どうも先程は軽々しく名誉とか口走ってしまい大変申し訳無い。


 その瞬間、俺はあることを思い出した。学生時代、帰宅するとそこには怒り心頭に達し、ナマハゲもかくやと思われる形相の母と、小さく見えたのはなにも正座しているからという理由だけに留まらない程縮こまってしまった父が居た。夜遊びがバレた挙げ句、使用した金額を誤魔化そうとした父が母に干されているという何ともセンセーショナルな光景であった。


「オヤジ・・・・・・あのときはお袋と一緒になって蔑むような目で見てゴメンな」と心中で父に謝罪を述べることにした。

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