ロッティとマグナ2
『信っじられないッ!』
ディスクブレーキの引き摺りような鋭く甲高い声でロッティが絶叫する我が家の軒先。ご近所様には大変申し訳無い話であった。
『―――い⋯⋯一体全体その娘は……その車体はな何だというのかしら?』
ロッティは辛うじて、喘ぐようにそんな言葉を紡いだ。顔面は蒼白、普段ジットリと湿気を帯び、落ち着き払った半月の瞼は、今や満月のように大きく見開かれ、全身からはロングツーリング後の熱せられたエンジンの如く湯気が吹き出しているかに見えた。
はて、ここまで盛大にショックを受けるような流れであったろうか? 俺は一旦自身の行動と言動を顧みてみた。
薄幸の原動機付き自転車『マグナ50』との出逢い→その境遇に強く心を痛め、相棒であるロッティに相談を持ちかける(※マグナの名前は出していない)→ロッティからは『やりたいようにやりなさい』とエールを送られる→最終的に一念発起し、マグナを引き取る。という話だった筈だ。
さて、不協和音を奏でるようなやり取りが一体何処にあったろうか? とりあえず、このままでは話が進まないため、彼女にマグナを紹介することにした。
「……きょ、今日から俺たちの家族の一員になるマグナ50の、マグナだ!」
「よろしくね」と爽やかに笑いかけてみたが、般若の如き表情を微塵も崩さないロッティにたじろいてしまい、ぎこちないものになっていった。
彼女の存在に面食らったマグナは隠れるように俺の腰にしがみついた。
『ねぇオーナー』
「なんだ?」
『アタシの愛称って『マグナ』になったの?』
「……そうだ」
『もっとさ、マギーとかマグ美とか、捻ったの、なかったの?』
『えー』と今度はマグナが不満そうな顔を向けてきた。どうも彼女は、俺のつけるあだ名に過度な期待していたようであった。
「マグナはマグナでいいの!」
マギーだと手品でも使ってしまいそうだったし、『マグナ』は十二分に格好良い名前だと思えた。というか寝ずに考えたが、他に有力な愛称が考えつかなかったのである。
ちなみに、MAGNAシリーズには全部で五台ものオートバイが名を連ねている。
―――VF750マグナ、V45マグナ、マグナ、Vツインマグナ(マグナ250)、そしてマグナ50であるが、一般的にマグナと呼ばれるのはVF750を指すため、愛称を付ける際には注意が必要であるかに思われた。
そして、状況は今や愛称なんてどうだって良いとでも言わんばかりの修羅場に突入しようとしていた。
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