オーナーとマグナ2

 話を戻そう。


 魅力溢れるHONDAマグナシリーズの末妹であるマグナ50。その車体に惚れ込み、様々な物語の果に手に入れることに成功し、時に無謀とも言える挑戦に身を投じることもあるミステリアスな雰囲気を漂わせる一人の少年・・・・・・


 それが『マグナキッド』だ。


 ロッティ(SR400)に乗れない冬の時期、バイクに対する熱意を絶やさないために、そして彼女をより深く理解するために、バイクに関するハウツー本やネットの記事を読み漁り、造詣を深めようかと思っていたのだが、そんな中でたまたま彼、マグナキッドに関する伝説の物語を見つけたのだった。


 カワサキの大型バイク乗りたちに嘲笑されながらも、相棒であるマグナ50を信じ、めげずに高速道路へと果敢に挑戦し、敢えなく警察に連行される話。父の危篤を知り、マグナ50と共に故郷へと一路駆ける話。同じく、原動機付自転車最大級のモンスターマシン、NS-1と繰り広げられた峠での死闘・・・・・・


 それらの伝説を紐解くにつけ、俺はマグナキッドへの憧憬の念と、マグナ50という原動機付自転車の異端児への興味を膨らませずにはいられなかった。



 一度でも構わない、彼女に、マグナ50に乗ってみたい。そう思うようになっていた。




 諸君、SR400を知ることと全く関係無いだなんて野暮なことは言うなかれ。


 俺と言う人間は謙虚でありながらも知識の探求に誰より貪欲な人物である。


 より多面的にバイクに対する造形を深めることによって客観的にSR400というヤマハ発動機の最高傑作に対する考察をより深め・・・・・・


 なんだかこの話自体が言い訳をしているみたいになってしまった。



 なにはともあれ2017年、夏。東京ツーリングより急死に一生を得て仙台に舞い戻った俺の元にはいつも通りの日常が訪れていた。


 晴れた日にはロッティと一緒に会社へと赴き、週末にはぶらぶらとせせらぎ近郊を当てもなく彷徨う。


 抑揚の無い幸せな日々だ。


 そんな平穏が連綿と続くのだろうと思えたある日、俺は会社の上司に勧められた近所の定食屋に赴くことにしていた。ロッティを駆れば5分と掛からない距離であったものの、それだけのために彼女を蹴り起こすのは気が引けたし、運動不足を解消しようと思い至り、徒歩にて件の店へと足を運ぶことにしたのであった。


 結果から言えばその定食屋はアタリだった。提供された料理はどれも美味しく、値段も極めて安い。


「気が向いたとき、また来よう」満腹でボンヤリとしてしまった脳みそでぼんやり考えながら、至福の一本に酔いしれる。


 店の脇に設けられた喫煙所にて紫煙を吐く俺であるが、そこで定食屋の隣は集合住宅になっていることに気が付いた。そして隣接しているのが駐輪場だということにも気が付く。


 これはロッティ(SR400)に乗るようになってからだが、駐輪場を見掛けるとついついどんなバイクが置いてあるのか覗いてしまうことがあった。



 そこで、俺は初めて『彼女』と出逢うことになる。

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