ロッティと高速道路2
『「やっぱり乗るんじゃなかったーッ‼‼」』
俺とロッティ(SR400) 2人の絶叫が山間を抜ける高速道路にこだました。片側一斜線の高速道路は入ってすぐに新幹線のレールのような道に変わり、風防もろくに設けられていない箇所では横風がダイレクトに俺たちを襲った。
『これは結構キツいわ・・・・・・』
車体自体の厚みもなく、足回りの細い彼女は横風に非常に弱い。なんとか80kmを越えていたのだが、後ろを走る車両は痺れを切らして隙間を縫って俺たちを抜かそうとしてきた。
先程も言っているがこの道は片側一斜線である。本来追い越しは出来ない筈だが、右からだけに留まらず、左からもどんどん抜かされていく。
「あぶねーよ、ちきしょー! 殺す気かッ!!?」
無作法にも追い越しを敢行する後続車に対し心中でしきりに罵声を浴びせるが、ただただ虚しいだけであった。俺自身はロッティを操ることで精一杯であったのだ。
横風に煽られまいとハンドルを握る手に力が入る。力が入ると舵が固まり、コーナーがぎこちなくなる。速度が乗っているため、緩やかなカーブであっても絶対に油断は出来ない。
そして、そのぎこちなさは転倒の恐怖へと直結していた。
一体どれくらいの距離を走ったのだろうか?
単気筒特有の激しいムーブメントは回転数に比例して大きくなる。手にかかる負荷は他のバイクよりも圧倒的に大きく、長時間や高高速のツーリングには注意が必要であった。
しかし今、停まることを許されない死の道において時速100kmに程近い速度での巡行を強いられ、俺の握力は限界を迎えようとしていた。
『なぁなぁ、そろそろ疲れたろ?』
誰かが耳元でそう囁いた気がした。
「ロッティ、何か言った?」
『何も言ってないわよ! 運転に集中なさい!』
しかし後部シートに誰かが居るような気がした。直感でそう感じたのだ。その声は徐々に距離を詰めてきた。
『・・・・・・手、離してもイイんだぜ?
離したらどうだ?
離せよ』
しまいには、その見えざる手でグリップを強く握り締める俺の手を必死に剥がそうとしてきた。
『早く離しちまえってッ‼‼』
小指から順番に。
「や、やめろよぉ!」
『ちょ、ちょっと、貴方、しっかりしなさいよ!』
俺はハンドルを離すまいと半狂乱になりながらも更に強い力でグリップを保持した。そうするしか抗う術を知らなかったのだ。
後で振り返ってみるとそれが初めての『死神』との邂逅であったように思う。
高速道路は死の恐怖との戦いであった。
命からがら次のインターで降りた俺たちは道路脇に自販機の設けられたスペースで休息を取っていた。
『はぁ・・・は・・・・・・ははッ! 高速道路って言ったって大したことなかったわね! 5速で事足りたわ!』
誤解の無いよう言っておくがSR400の最高ギアは5速である。ロッティはゼェゼェと肩で息をしながら熱くなったエンジンを何とか冷まそうとしていた。瞬間的にとはいえ時速100kmを超える走行もしていたのだから無理も無い話であった。
俺も固まってしまった手のひらの感触を正常に戻そうと開いたり、握ったりを繰り返していた。
冷たいコーヒーで乾ききった喉を潤し、地図アプリで本来のルートから外れてしまった現在の位置を確認する。
「あ・・・・・・」
『・・・・・・⁉ どうかしたの?』
「逆行しちゃってた・・・・・・」
つまりは東京方面へと戻る道を辿っていたのだ。
『サイテー』
どうかまたあの道に入りませんように。そう祈りながら再び走り出すのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます