ロッティと高速道路1
2017年、夏。東京ナイトツーリングの復路にあたる。金曜の夜を通して東京へと辿り着いた俺とロッティ(SR400)は土曜の夜にライブ参加を果たし(たと言って良いものかいささか怪しい)、一泊1500円のドミトリー(8人部屋)にて泥のように眠り、翌日曜日の早朝、太陽も登らぬうちに東京の街を飛び出した。
「東京なんて二度と来ないぞ」
『オートバイに不寛容な街、東京、滅ぶべし』
概ねそのような吐き捨て台詞を残して行った。
さて、早朝のツーリングと言うものは実に痛快である。仙台へと続く大きな道路は俺たち以外誰もおらず、夜間のようにトラックの後方を走る必要もない。よって行手を遮るものは無く、のびのびとマイペースに走ることが出来た。
「やっぱり走るなら朝だね!」
『まーた、調子が良いんだから』
水を刺すような言い回しのロッティだったが、機嫌が良いのは直ぐに分かった。耳を澄ませば、単気筒の心地よいサウンドに合わせて彼女の鼻歌まで聞こえてきそうだ。
往路とは打って変わって順風満帆とはこんな時のためにある言葉と断じてしまう程に何もかもが順調であったのだ。
しかし、災いというヤツはそんな時にこそ降って湧くものである。
『ちょ、ちょっとやめなさいって』
普段毒舌で慣らしたロッティでさえ一歩引いて困惑した表情を浮かべている。
「止めないでくれっ、ロッティ!」
俺たちは高速道路の入り口であるインターチェンジにいた。ふと気を抜いた瞬間に見かけた緑看板を目的地か何かと勘違いしてしまい入り込んでしまったのだ。
本来、高速道路の入り口には間違って入ってしまった人のため、一般道に戻る退避路が設けられているものである。しかしながら、そういった道はついぞ見つけられなかった(或いは本当に無かったのかもしれない)。
ゲートの前で俺は係の男と口論になっていた。
「なぁ、頼むから逃がしてくれ! 絶対に俺は事故る、事故って死ぬ! 絶対にだッ!」
「・・・・・・えーと、逆走は出来ないんですよ・・・・・・次のインターで降りて貰って良いですかね?」
炎天下の中男は面倒臭そうな顔と申し訳なさとを混ぜ込んだ、つまりは困った顔でそう頼んできた。
「良いかよく聞け! ここで俺を高速道路へと入れてしまったなら、俺は十中八九事故って死ぬぜ? そうなったときアンタには殺人の容疑が掛けられることになるが、それでも良いって言うのか!?」
馬鹿みたいなことを言っているように聞こえるだろうが、言っているこちらとしては真面目もマジメ、大真面目である。本気で生死に関わる案件だと思っているのだ。それは無論俺自身のライディングスキルの不足によるものが大きいのだが。
「速度ギリギリの安全運転でも大丈夫なので次のインターで降りてくださいって・・・・・・」
折衷案のように提示する係の男だが、彼は大きな勘違いをしている。眼前にて口を開けるゲート、これはまさに地獄への門であり、一度これをくぐろうものなら俺とロッティを待つ運命は死のみ、因果逆転の法則によって入った瞬間に事故に遭って死ぬことまでが確定する。
それを「ゆっくり運転すれば大丈夫」だなんて勘違いも甚だしい。
『ね、ねぇ、私恥ずかしいんだけれど・・・・・・やめてもらって良いかしら?』
「ロッティはちょっと黙ってて!」
たかだか高速道路のインターチェンジにて一世一代決死の食い下がりを演じてみせた俺だったが、そんな押し問答をしている間に後続車が数台来てしまい、係の男に押し込まれるようにゲートへと追いやられてしまったのであった。
緑の標識に御用心、それは地獄への案内掲示板。
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