ロッティと東京夜間急行2
職場を定時で退勤し、同僚達へは「無事に東京から戻ったらみんなでパァーっとバーベキューでもしようぜ!」と腕組みをしながら固く約束を交わし、自宅へ戻り身支度を整えて東京へ向け出発したのが午後19時ちょうどのことだった。
本来であれば20時30分過ぎには福島駅を通過している筈だったのだが、福島駅付近のコンビニにて休憩した際、21時30分を過ぎていた。一体どこで何をすれば1時間も余計に掛かってしまうのだろうか?
答えは明白である。休憩の回数が予定よりも多く、そして長いのだ。
街の明かりが静かな闇を煌々と照らし、夜を一層深いところに落とし込んでいるように思われた。そんな宵闇を泳ぐようにロッティと走るのは非常に困難であった。
「苦しい夜になりそうだ……」
そして、思っていた以上に、初夏の夜は寒かったのだ。
SR400の特徴でもある単気筒の強い振動によって腕の筋肉はガチガチに硬くなっていた。背負ったリュックもずっしりと重みを増したかに思え、一度休憩のためエンジンを停めてしまうと、再びその鼓動を返すことが非常に億劫になってしまっていた。
車止めに座り込み、うな垂れながら次の煙草に火を着ける。そんななさけない俺にロッティは言い放った。
『―――ひとつ、大切なことを教えてあげるわ……』
そもそも夜間の走行は危険が伴う。事故を起こしてしまっても発見されない危険性もある。修理をしてくれる店も営業時間外であり、小さな故障であっても足が止まってしまう。また夏場でも夜間走行は体温が奪われ、体力の消耗が激しい。加えて静かに忍び寄る眠気もケアしながら、注意力を確保しなければならないため、休憩は小まめに取ることが推奨され、必然的に距離数が稼ぎ難い。
リュックなどの荷物も肩への負担が大きく、これらも体力を奪う要因になるので、サイドバッグなどを活用し、なるべく身軽になっておくべきだそうだ。
『……まぁ、夜間走行の注意点は挙げればキリが無いのだけれど、どうしてもまだ東京を目指すと言うのなら、大きなトラックの後ろを走りなさい』
「トラック? どうしてまた?」
『風除けになって貰うのよ。信号待ちの停車中も排気ガスが暖かくて……ちょっと臭いけれど体力の消耗を防げるわ。ただし、走行中は近づき過ぎて追突してしまわないように気をつけて』
そしてその手をこちらに差し伸べてくれる。
『どうせまだ諦めて無いんでしょう?』
「ロッティ……」
彼女はなんだかんだ言いながらも俺の身を案じて一緒に着いて来てくれるのだ。こんな最高の相棒が他にいるだろうか? いや居ない。その反語表現によって、勇気とともに活力が湧き上がってきた。
立ち上がり、勢いよく車体に跨ってエンジンをキック一発で掛ける。辺りは暗く、キックインジケーターが見えないため、デコンプレバーを半分握った状態で蹴り込む『慣れた人』向けの始動法だ。
上り車線に入るとトラックを見つけ、すぐに後ろに張り着いてみた。まさに彼女の言う通りで、トラックの廃棄ガスは暖かく、心強い風除けになってくれた。
走りながら、彼女に話しかける。
「ねぇロッティ」
『何?』
「―――この旅が無事に終わったら……いや、すごく大事なことだから、無事に東京に着いたら伝えるよ!」
『……やっぱり貴方、何が何でも死にたいみたいね』
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