ロッティと冬休み2
俺とロッティ(SR400)は師走の寒空の下、会社へとたどり着いた。とある電子部品を加工・製造する決して大きくない会社であったが、郊外に居を構えており、敷地だけは無駄に大きい。
早速施設の隅にある倉庫小屋を目指した。
『うーん、随分と汚い物置ね・・・・・・』
ロッティは大きな溜息をひとつ漏らした。
「会社の先輩の好意で貸してもらえたんだから文句言わないの」
『はいはい』
とりあえず中を見ないことには始まらない。サビに錆びた南京錠を解き放ち、これまた錆びた扉を開け放てば、小屋の中には真っ暗な空間が広がる。
「電気は・・・・・・っと、着いた着いた」
扉を開け放って直ぐのボタンにより、裸電球が3つ、暖色の光を撒き散らしながら、小屋の中の全容を照らし出す。12畳ほどの長方形の空間、短辺の端に木材で横に区切られた3段の物置棚。年季の入った工具箱が3つ、随分と埃を被っていた。
俺は一歩踏み出して小屋の中へと入ってみた。その瞬間である。
「うわっ!」こちらの動きに連動するようにぶわっと舞い上がる積年の砂埃。まるで生きているかのように窓から差し込む光の下で舞い踊った。
そして隅の方でカサカサと蠢く『何か』。恐らく寒さを凌いでいた昆虫かと思われるが・・・・・・汚い・・・・・・あまりにも汚すぎる。
『ま、まさかこんなところに冬の間中私を閉じ込めておく気?』
俺の背中越しに室内を見ていたロッティは眼前で両親でも殺害された少女の如き愕然とした表情を浮かべた。『嘘よね?』
「まぁ・・・・・・そうなるかな」
『無理無理無理無理、絶対無理ッ! こんな埃まみれの空間で冬眠なんて出来るわけが無いじゃないッ!』
俺の言葉を喰いながら『貴方は悪魔よ!』と金切声を上げた。
「分かった! ・・・・・・いや、分かったから落ち着いて・・・・・・掃除する、ちゃんと掃除するからっ」
単気筒特有のムーブメントを、何とか宥めようと試みた。それを受けて彼女はしばし俺の瞳を・・・・・・その奥にある真意をジッと見つめ来る。
『・・・・・・そ、ならチリひとつ残さないようにお願いね』
「切り替えの早ぇな、おい」
俺自身バイクではないがローギアの次にいきなり6速を入れられた気分だ。まぁSRは5速までしか無いのだが。
自分の家でもなかなかやらない年の瀬の大掃除は二時間ほど要した。
『まぁちょっとは快適になったわね』
短く感想を述べてロッティは窓のへりを人差し指でなぞる。今やドラマでもなかなか見ることのない、悍ましい姑の仕草だ。
「いやいや、このご時世雨風が凌げる場所があるだけでも有難い話だよ?」
『どのご時世よ?』
『ありがとう』とか『大好き』とか『愛してる』とか、折角頑張って掃除したのだからもうちょっと感謝の言葉があっても良いように思えるのであった。
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